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フォンテラ社、消費者向けブランドの売却など戦略的方向性の転換を発表(NZ)

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 ニュージーランド(NZ)乳業最大手のフォンテラ社は5月16日、同社のプレスリリースを通じて、主にアジアで展開している消費者向け事業、製品BtoB事業と消費者向け事業で構成されている同社のスリランカ法人部門フォンテラ・スリランカ、原料供給事業からすべての事業領域に参画しているオーストラリア法人フォンテラ・オーストラリアとNZの消費者部門フォンテラ・ブランズNZ(FBNZ)が統合したフォンテラ・オセアニアの一部または全部の売却を検討していると発表した(図)。
 同社のハレルCEO(最高経営責任者)は、今回の戦略的見直しにより、中核事業である高品質な乳たんぱく質の供給サービスの強化につながると述べている。そして、酪農家との強固な関係構築、原料供給先とのパートナーシップの深化、外食チャンネルへのさらなる投資などに取り組んでいくとしている。
図 売却の可能性がある事業一覧

1 フォンテラ社の長期戦略

 フォンテラ社は2021年、30年までの財務目標を含む長期戦略「Our Path to 2030」(注1)を発表しているが、これらの目標は、今回発表された売却の可能性がある事業を含む戦略に基づいていることから、今後、改定した長期戦略を発表する予定としている。 
 今回発表された売却の可能性がある事業を合わせると、24年度上半期の同社グループ全体の取り扱い乳固形分量(TMS:Total Milk Solid)(注2)の約15%、営業利益の約19%を占めている。フォンテラ社にとって、消費者向け事業への参入は企業戦略の要とみられていたが、今回の見直しを機に、売上高の約7割を占める原料供給事業に対し、より経営資源を集中した経営への転換を図っていくものとみられる(表)。この背景には、高インフレと経済の低成長による小売業界の苦境により、消費者向け事業単体では減損を計上していることに加え、フォンテラ社は酪農家所有の協同組合(注3)という構造上、中核機能である生乳の集荷・加工・販売に関する事業を優先するという判断もあったとしている。

(注1)2030年を見据え、世界市場でのNZミルクの差別化、環境への配慮、イノベーション(新機軸)への投資などに取り組むことを定めた長期戦略。望ましい生乳価格や資本利益率目標など、複数の数値目標が設定されている。
(注2)牛乳成分のうち、水分以外のすべて(乳固形分)を指す。さらに、乳脂肪分と無脂乳固形分とに分類される。
(注3)共通の目的を持った組合員が出資し、運営・利用する組織形態を指す。フォンテラ社はNZ国内の酪農家が株主(組合員)となって所有しており、現時点で約9000戸の酪農家が加入している。


 
表 フォンテラ社の事業別指標(2022/23年度)

2 豪州の酪農産業への影響

 フォンテラ・オーストラリアは、ビクトリア州とタスマニア州に8つの製造拠点を持ち、約1600人の従業員を雇用しており、また、数百人の酪農家と契約し、豪州全体の生乳生産量(22/23年度(7月〜翌6月):81億3000万リットル)の約2割に相当する年間約14億リットルの生乳を集荷していると報じられている。業界団体からは、売却の結果として、新たな企業が参入することで、市場の競争環境が刺激されることは望ましいとの声が出ている。一方で、既存の乳業や小売大手のコールズやウールワースへ売却された場合は、輸入乳製品に対する競争力の強化にはつながらず、結果として輸入乳製品が増えることになると懸念を表している。フォンテラ社は、手続きを評価するためのアドバイザーを任命すると発表しており、この売却には少なくとも1年〜1年半はかかると予想している。
【渡部卓人 令和6年5月29日発】
このページに掲載されている情報の発信元
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