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生体家畜輸出に関する初の業界報告書を発表(豪州)

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 豪州の生体家畜輸出業界団体であるライブコープ(Live Corp)は5月23日、豪州では初めてとなる生体家畜輸出に関する業界報告書を発表した。
 本報告書によると、2023年の主な生体家畜(牛、羊、山羊、水牛など)の総輸出頭数は前年比18%増の132万頭、輸出額(FOB価格)は同23%減の10億3443万豪ドル(1086億円:1豪ドル=104.96円(注1))とされている(表)。また、同年の牛および羊の海上輸送時の1日当たり平均死亡率は、牛では0.0049%、羊では0.0062%と、どちらも過去最低水準となり、その輸送環境は年々改善されていることが明らかとなった。
ライブコープのコリアーCEО(最高経営責任者)は、本報告書は統計データだけではなく、人々の意識調査の結果や動物福祉向上に関する研究・支援など、生体家畜輸出業界の現状を包括的にまとめた内容になっていると説明している。また、このように業界の対応を発信していくことで、業界の透明性を高めていくことが重要としている。
 
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年4月末TTS相場。
表 生体家畜輸出に関する統計データ(2023年)

1 豪州の生体家畜輸出の概況

 豪州家畜輸出業者協会(ALEC:Australian Livestock Exporters Council)によると、生体家畜輸出業界(牛、羊、山羊、水牛など)は、年間約13億豪ドル(1364億円)の収入をもたらし、1万人の雇用を生み出す重要な産業となっている。その中でも収入の約9割を占める生体牛輸出は、肉用牛と乳牛に大別され、2023年の輸出額ベースでみると、約8割が肉用牛となっており、その多くが肥育・と畜用にインドネシアやベトナムに輸出されている。
 豪州の生体家畜輸出は農林水産省(DAFF)が所管する輸出管理法2020(Export Control Act 2020)に加え、豪州家畜輸出基準(ASEL)ならびに輸出業者サプライチェーンシステム(ESCAS)の主要な2つのシステムにより高度に管理されている(注2)。また、本報告書では、LIVEXCollect(注3)と呼ばれるライブコープが運営・管理するデータ収集プラットフォームの統計データが用いられている。本システムは、関係者がいつでもデジタル上で関連データの閲覧が可能であり、業界による取り組みの効果などを可視化することで、過度な規制の抑制や動物福祉の向上に役立つとされている。
 
(注2)「畜産の情報」2022年11月号「豪州およびニュージーランドにおける生体牛輸出の現状」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002464.html)をご参照ください。
(注3)豪州家畜輸出基準(ASEL)とも紐づいており、輸出前の検疫施設や海上・航空輸出業者による規制当局への報告に使用されている。

2 報告書の内容

1 家畜輸出産業に関する意識調査
 家畜輸出サプライチェーンのさまざまな側面に関する地域社会の意見を理解するため、一般市民から輸出業者まで全国4000人以上を対象に2019年から調査を行っている。23年の調査では、「家畜輸出産業の利益とコストについてどう考えるか」という設問に対し、調査対象者の約4分の3は利益がコストを上回るもしくは同等であると回答している。
 また、動物福祉に関しては、輸出業者の95%が「より良い動物福祉の実践と最新技術の導入」が重要または非常に重要と回答しており、このような結果も踏まえ、業界が提供する資金の半分以上が動物福祉関係の研究に投じられている。これらの成果として、「生体家畜輸出は豪州の動物福祉基準に沿っているか」という設問に19年は54%が沿っていないと回答していたのに対し、23年は39%まで減少したとしている。
 
2 海上輸送時の死亡率
 輸送時の死亡率は、業界と規制当局にとって最も重要な指標とされている。業界による研究への投資および輸出規制の強化などによって、直近10年間で死亡率は低下傾向で推移しており、特に羊の死亡率は10年前と比較して約8割減少したとされている(図1、2)。
図1・2 海上輸送時の1日当たり平均死亡率の推移
【渡部卓人 令和6年5月30日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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