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欧州てん菜生産者団体、24/25年度の生産環境は厳しいものと予想(EU)

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最終更新日:2024年6月5日

 欧州てん菜生産者連盟(CIBE)(注1)は5月15日、直近のてん菜生産を取り巻く状況を公表した。これによると、欧州のてん菜生産者にとって、2024/25年度(10月〜翌9月)の生産は非常に厳しいものになると予想している。
 23/24年度の欧州のてん菜生産状況を見ると、多くの国で収穫期の過度な降雨の影響を受け、過去数十年来となる低糖度となった。また、萎(い)黄(おう)病が広がる中で、被害を免れた地域はあったものの、SBR(注2)やRTD(注3)などの病害が生産への被害をもたらした。さらに、多くの国で24/25年度の播種が完了していないことや、厳しい天候と害虫の発生により、すでに影響を受けている地域もあるとされる。この状況についてCIBEは、生産者が作物を効果的に保護し、気候変動に対応するために利用できる(農薬の使用などの)手段が縮小していることは、欧州砂糖部門の持続可能性に対する脅威であるとした。また、植物のための新ゲノム技術(NGTs:New Genetic Technologies)(注4)を含む新たな効果的な手法の導入を待ち望んでいるとし、効果的な代替策がない状況で植物保護製品(農薬)の使用禁止や制限がこれ以上増えることがないよう訴えた。加えて、生産者や関係者による研究開発への投資についても、一定の時間、適切な公的支援と政策的な支援に加え、財政的支援が必要であるとしており、これらの内容は欧州議会選に先立って発表されたCIBEのマニフェスト(注5)の最優先課題に挙げられている。
 さらに、ウクライナからの砂糖輸入をめぐる砂糖市場と自主貿易措置(ATMs:Autonomous Trade Measures)延長の合意(注6)についてCIBEは、欧州砂糖部門は依然として脆(ぜい)弱(じゃく)であるとしながらも、ウクライナからの砂糖輸入量の増加がEUの市場価格を押し下げていることを欧州議会が認め、砂糖の流入を制限するために1年間セーフガードを導入することに合意したことを評価した。欧州の砂糖部門は、砂糖の生産割当廃止後の経済危機に始まり、ネオニコチノイド系農薬の使用禁止やエネルギー価格の高騰など、これまで幾多の危機にさらされ続けている。22/23年は砂糖部門の回復の兆しが見られたものの、ウクライナからの砂糖輸入量が41万2937トン(前年度比10.2倍)と大幅に増加したことで(図)、EU域内の砂糖価格は圧迫された。23/24年度についても、24年1月時点ですでに23万9532トンがEU域内に輸入されている。CIBEは、ATMs延長の合意について、市場悪化の影響を受ける欧州とウクライナの生産者双方にとって公正な結果であるとし、欧州委員会に対し、ATMsの延長初日にセーフガード措置を発動するよう強く要請するとしている。
 このような中で欧州委員会は5月3日、農畜産物の短期的需給見通し(注7)を公表しており、24/25年度のてん菜生産量について、播種が遅れたものの、作付面積の増加により、1億1300万トン(同2.1%増)とわずかな増加を見込んでいる。
図
(注1)てん菜を生産するEU14カ国、英国、スイスの国・地域団体を統合する組織。年間約1600万トンの砂糖を生産する11万人の生産者を代表しており、生産者の生活を支えている。
(注2)てん菜の病気である糖含量低下症(Syndrome Basses Richesses)の略。ヒシウンカ科の一種によって媒介される病気で、葉の黄変をはじめとした病徴を呈し、根部の糖含量を著しく低下させる。近年欧州のてん菜栽培地域で重要性が増加している。
(注3)てん菜の病気であるRubbery Taproot Diseaseの略。SBRと同様にヒシウンカ科の一種によって媒介される病気で、水分が失われた主根はゴム状を呈するほか、葉の黄変などの病徴が特徴である。感染したてん菜は収量が減少するほか、ゴム状になることから収穫後の工場での加工においても支障をきたす。
(注4)欧州委員会は、NGTsを食料システムの持続可能性と回復力を高め、欧州グリーンディールとFarm to Fork戦略の目標を支援する革新的なツールとしている。NGTsは、(1)気候変動や害虫に強く、(2)肥料や農薬の使用が少ない、(3)より高い収量を確保する品種を正確かつ効率的に開発することを可能にする。
(注5)EU農業の将来に関わるEU諸機関との戦略的対話において、生産者がてん菜やその他作物を効率的かつ持続的に生産し、農場の生産性と持続可能性の更なる向上を可能にさせることが何よりも重要であると喚起している。
(注6)ウクライナからEU向けの輸出品に対する輸入関税と輸入割当を停止するもので、併せて砂糖など影響が大きいものと考えられる製品についてセーフガードを適用する。詳細については、2024年4月19日付け海外情報「EU理事会と欧州議会、ウクライナ産農畜産物貿易措置の延長に合意(EU)」をご参照ください。
(注7)詳細については、2024年5月14日付け海外情報「欧州委員会、てん菜および砂糖の短期的需給見通しを公表(EU)」をご参照ください。

 
【峯岸 啓之 令和6年6月5日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9806