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飼料中たんぱく質の自給率向上に関する政策支援の強化などを提言(EU)

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 欧州委員会は2024年5月24日、外部の研究機関から成るコンソーシアムが作成した「EUの家畜生産で利用されるたんぱく質資源多様化のための飼料戦略に関する調査報告書」を公表した。
 EUでは、食料安全保障の観点などから、域内での植物性たんぱく質の生産拡大が目標に掲げられており、今年4月に開催された農業大臣会合でも、畜産部門における植物性たんぱく質生産の重要性について言及がなされている。
 21/22年度のEU全体の飼料自給率(粗タンパク質ベース)は77%であり、品目別では、粗飼料が100%、穀物が90%と高い一方、油糧種子かすは37%と他品目と比較して低く、特に大豆かすの自給率が3%と低い(注1)。これは、安価な輸入品と比較して、EUの農地面積や土壌、気候条件が不利なことで価格競争力が弱いことに加え、流通面や法的要件など域内での制限を受けるためである。
 本報告書では、これらを課題に挙げ、域内でのたんぱく質作物(マメ科植物(マメ科牧草を含む)および大豆。以下同じ)および油糧種子の自給率向上に向けて分析・検討を行い、対応策を講じるよう提言している。
以下で、主な提言内容について紹介する。
 
(注1)飼料の輸入依存度については、海外情報「欧州議会、家畜飼料原料の輸入依存状況を公表(EU)」をご参照ください。

1 たんぱく質作物などの競争力強化

(1)官民共同での研究開発

たんぱく質作物および油糧種子は、これまで小麦やトウモロコシなどの穀物に比べて研究の頻度が低かったことで、結果として競争力が弱くなったことを踏まえ、以下の分野などで長期的な研究開発に取り組み始めるべきとした。
  • たんぱく質作物の収量やたんぱく質含有量など向上のための品種選抜
  • 栄養分を低下させる因子が少なく、耐病性の高いたんぱく質作物の選抜
  • 革新的な飼料原料の開発(例:藻類など)

(2)EU域内での植物性たんぱく質生産への一時的な支援の拡大

 EU域内での植物性たんぱく質の増産および域内産の飼料原料への切替えを促進するため、7〜10年程度の支援(WTOルールの範囲内の支援)を提言した。具体的な候補としてCAP(共通農業政策)でのカップル支払い(注2)を挙げている。  
 
(注2)経済的、社会的、環境上重要で生産維持が困難な特定の品目について、生産者に対して生産量に応じた補助金の支払を認めるもの。

(3) バリューチェーンが必要な投資を行うための支援

 たんぱく質作物の流通拡大には、副産物の販売先の確保、物流の整備、機械、設備など導入が必要であるため、これらへの投資に対するCAPの第2の柱である農村振興政策などによるさらなる支援が必要とした。

(4) CAPの収穫保険制度(Harvest insurance)の支援拡充

 生産者のリスクを低減し、たんぱく質作物の作付け意欲向上が目的であり、例としては、支援上限額の引き上げや保険でカバーされない部分の縮小などが挙げられている。

2 生産者組織の強化、関係規制の緩和等

 サプライチェーン上での生産者の位置づけを改善するための生産者組織の強化、高たんぱく質作物・豆類の生産や草地を幅広く支援するための飼料添加物規制等の簡素化、効率的な輸送のための域内インフラの整備などを提言した。

3 その他

 草地やマメ科牧草を拡大するため、CAPのカップル支払いなどによる生産支援を一時的(7〜10年)に大幅に増やすこと、生産者が提供する食料、水、炭素固定、生物多様性などの「環境サービス」を環境支払いの対象とし、この中で、たんぱく質を多く含む作物生産と草地を優遇することなども選択肢として挙げた。
【調査情報部 令和6年6月10日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:調査情報部国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397