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NZ政府、メタン生成などの抑制剤の利用に関する規制強化に前進(NZ)

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 ニュージーランド(NZ)では、2024年3月に政府が第一次産業規制制度改正法案(The Primary Industries Regulatory Systems Amendment Bills)(注1)をNZ議会に提出し、現在は特別委員会で提出法案の審議・報告書の作成が行われている(本年7月7日に下院に報告書が提出される予定)。提出された改正法案では、規制法の一つである農業用加工物および動物医薬品法(ACVM法:Agriculture Compounds and Veterinary Medicines Act 1997)(注2)における「農業用加工物」の定義に、メタン生成などの「抑制剤」(注3)を新たに含める提案がされている。この抑制剤を規制の対象とする措置は、2022年にACVM法の規則改正により特定の抑制剤(およびその成分)を対象とすることで暫定的に実現しており、今回の法案改正により抑制剤と定義されるすべての物質が規制対象に移行する予定となっている。
 
(注1)第一次産業省(MPI)が所管する複数の個別法の修正案を一つのパッケージとして、議会プロセスにかける立法手段の一つ。
(注2)NZ内での農業用加工物および動物用医薬品の輸入、製造、販売、使用認可について規制している法律。農業用加工物とは、動植物の管理において生産性の向上や栄養状態の改善を目的として使用される物質を指す(例:農薬、肥料、動物用飼料など)。
(注3)農業において特定の生物学的・化学的プロセスに作用し、環境や気候変動への影響に対応するために使用される物質を指す。

実需者のコメントと政府の法案改正の趣旨

 アスパラゴブシス(日本では通称「カギケノリ」)(注4)を利用した飼料添加物を販売しているCH4グローバル社のメラーCEOは、5月23日に開催された改正法案を審議している特別委員会の場で、「2022年からACVM法による規制がメタン生成抑制剤に適用されてから、どの企業も申請手続きすら着手していない。この改正の機会に規制を緩和しなければ、NZは温室効果ガス(GHG)削減の分野で世界から立ち遅れる」と、法案の改正に当たって意見を述べている。
 これに対し、NZ食品安全局のアーバックル副局長は、新聞報道を通じて「今回の措置は2012年に中国に輸出したラクトフェリンから基準値を超える硝酸塩が検出され、貿易上のリスクが生じたことが契機(注5)となっている。20年に実施した抑制剤の規制に関するパブリックコメントでは、ほぼすべての回答で規制への強い支持が得られた」とコメントを発表し、関係者に理解を求めている。また、23年に国連食糧農業機関(FAO)から発表された抑制剤の食品安全への影響に関する報告書を引用し、飼料添加物で利用されるアスパラゴブシスなどの海藻類には、人に対する発がん性の可能性があるブロモホルム(注6)が含有しているなど、潜在的な食品安全への影響に対して今後十分な評価が必要であるとし、改めて抑制剤の利用に慎重な姿勢を示し法案提出の趣旨を説明している。
 
(注4)「畜産の情報」2023年3月号「豪州およびニュージーランドの畜産業界における持続可能性 〜気候変動対策を中心に〜」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002629.html)をご参照ください。
(注5)肥料への添加や放牧地に直接散布することで、土壌中の微生物の働きを抑制し、亜酸化窒素の排出を抑制することができる硝化抑制剤ジシアンジアミド(DCD)を利用していたことが残留の要因と報告されている。
(注6)海藻によってつくられる臭気化合物。反芻
(はんすう)動物の飼料添加物として利用した場合、メタン生成を阻害する効果があるとされている。

FAOによる食品安全への影響報告

 FAOは、23年12月に環境抑制剤(Environmental Inhibitors)の食品安全への影響を取りまとめた報告書を発表している。その中では、気候変動への対応が高まる中、環境抑制剤は農作物や家畜の生産効率を向上させ、食料システムをより持続可能なものにするために使用されていると報告している。一方で、環境抑制剤の食品安全性を確保するには、規制と知識のギャップを埋めるためのさらなる努力が必要であるとしている。
 具体的には、環境抑制剤は反芻動物の腸内発酵やその他の農業由来のメタン排出を抑制する「メタン生成抑制剤」と農地からの窒素の流出を抑える「窒素抑制剤」に分けられる。どちらも食品中の残留またはその代謝物への残留に関するデータが不足しており、食品安全リスクを評価できない状況にあることから、高度な検出方法の開発など、技術的解決策を模索することで、規制との調和を図っていくべきとしている。また、コーデックス委員会(CAC)は、各国の環境抑制剤の規制(表)にはバラつきがあり、規制値が存在しない物質もあることから、リスク分析のための国際的なガイドラインを採択し、環境抑制剤の最大残留基準値について、農作物はコーデックス残留農薬委員会(CCPR)、動物はコーデックス食品中残留獣医薬委員会(CCRVDF)で検討することでFAOと合意したと報告している。
表 各国における環境抑制剤の規制状況
【渡部卓人 令和6年6月13日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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