輸入依存度を下げるため、同国政府は砂糖の自給率向上とバイオエタノールの増産を実現すべく、現在、南パプア州メラウケ県での開発に着手している。計画では、約200万ヘクタールの土地がサトウキビ圃場や砂糖とバイオエタノールの開発複合施設などに利用するとされている。24年4月には「大統領規程2024年第15号」が発表され、サトウキビ圃場、バイオエタノール工場、バイオマス発電プラントの投資の一体化を加速させ、同開発を促進するためのタスクフォースがメラウケ県に設置された。
現地報道によると、24年4月から5月の間に同地域の開発で使用されるサトウキビの苗約7200本が豪州より到着し、輸入された苗の検疫検査が実施されている。インドネシアでは、サトウキビ黒穂病
(注3)を含む病害が問題となっており、今回は、これらに対して強い抵抗性を有する豪州産の優良品種が輸入されている。
また、6月にはマアルフ副大統領が同地の研究所を視察し、南パプア州でのサトウキビ生産拡大への支持を表明した。この中で同副大統領は、東ジャワ州で生産されるサトウキビでは6〜7%の糖度しか得られないことに対し、メラウケ県では豪州と同等の11%以上の糖度のサトウキビが生産されることへの期待を述べている。
インドネシアでは、これまでメラウケ県に大規模な食料農園(MIFEE:Merauke Integrated Food and Energy Estate)
(注4)が計画されるなど、食糧自給率向上のための開発が実施されてきたが、どれも小規模な開発にとどまっている。また、先住民の共同体や環境保護活動家は、今回のメラウケ県での開発が土地の収奪や生態系の破壊、伝統的な生活の破壊につながるのではないかと懸念している。このため同国政府は、地元住民と企業関係者に対し、同開発への積極的な関与を求めている。
(注3)糸状菌である黒穂病菌(Sporisorium scitamineum)によって引き起こされるサトウキビの重要病害で、罹病したサトウキビは茎の先端から黒色の鞭状物を生じる。世界中のサトウキビ生産地域で発生が確認されており、生育不良で収量が低下するため、黒穂病抵抗性は世界的にも主要な育種目標の一つである。日本国内での黒穂病への取り組みについては、砂糖類・でん粉情報2019年2月号「国内に自生するサトウキビ野生種を活用した黒穂病抵抗性の強化」をご参照ください。
(注4)インドネシア政府が2011年5月に発表した「インドネシア経済開発加速・拡大マスタープラン2011年〜2025年」に基づき計画されたが、森林伐採やサトウキビの連作障害などの問題が発生した。詳細については、砂糖類・でん粉情報2016年9月号「インドネシアの砂糖事情〜自給率向上に向けた砂糖産業の現状と振興策〜」をご参照ください。
【峯岸 啓之 令和6年6月19日発】