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米国農務省、肉用鶏生産者と鶏肉企業の契約システムに規則を追加する改正規則案を公表(米国)

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 米国農務省農業マーケティング局(USDA/AMS)は6月10日、パッカー・ストックヤード法(注1)に基づく家きん生産者トーナメントシステムに新たな規則を追加する規則案を公表した。本システムに関しては透明性確保の観点から、鶏肉企業に対して、生産者への情報開示を義務付ける改正規則を24年2月に施行したばかりであるが、今回の改正案は公正性の確保に切り込んだものである(注2)
(注1)パッカー・ストックヤード法:食肉企業が不公正で欺瞞的な慣行を行うこと、価格の操作を行うこと、独占を形成することなどを禁止するために1921年に制定された連邦法。
(注2)詳細は「【海外情報】米国農務省、肉用鶏生産者・鶏肉企業間の契約システムの最終規則を公表(米国)(令和5年11月21日発)」も併せてご参照ください。

 

1 家きん生産者トーナメントシステムの概要

 米国では、肉用鶏生産者が鶏肉企業と委託契約を交わす形態が主流であり、2022年の農業センサスによると、生産者の96.2%が契約生産者である。一般的に、鶏肉企業は各生産者にヒナや飼料などの投入資材を供給し、生産者は鶏舎やその他の施設の整備、機材の導入、鶏の飼養管理などに要する費用を負担する(図1)。また、これらの契約のほとんどの場合、生産者への報酬額の仕組みとして、家きん生産者トーナメントシステムが用いられている(注3)。本システムでは、報酬額は「出荷時の肉用鶏総重量」に「重量当たり報酬額」を乗じて決定することが一般的である。「重量当たり報酬額」を決定する際には、鶏肉企業が各契約生産者を比較・順位付けすることで差を付けている。肉用鶏の重量当たり生産コストの平均値を算出し、生産コストが平均値を下回った生産者には報酬額を増額、上回った生産者には報酬額を減額することが多い(図2)。
(注3)2014年にUSDAが実施した調査によると、契約生産者のうちの93%以上が家きん生産者トーナメントシステムによる契約を締結。
鶏肉企業と契約生産者の契約とそれぞれの負担の概要
図2一般的な報酬額の計算

2 USDAが指摘する問題点

(1)鶏肉企業に有利な契約実態
 契約生産者は、施設整備費用を捻出するために融資を受けていることが多く、債務履行や投資回収などの財務リスクを抱えている。そのため、鶏肉企業に肉用鶏を出荷しなくてはならない生産者は、投入資材を供給する鶏肉企業に経営を依存せざるを得ず、生産者と鶏肉企業の間の力の均衡を保ちづらい。
 さらに、地域内にある鶏肉企業が1〜2社に限られる生産者が51.9%を占めるなど、生産者には契約先となる鶏肉企業を選択する余地がないことも多い。USDAによると、地域内の鶏肉企業が少ないほど鶏肉企業から生産者への報酬額が少額である傾向が大きいとされる。また、地域内に複数の鶏肉企業がある場合でも、契約先の変更には、施設・設備の水準、肉用鶏の品種、出荷目標体重など、新たな契約先が求める生産体制への切り換えにコストを要するため、契約先の変更も容易ではない。
 このような契約実態が生産者の立場を不利にしている中で、鶏肉企業が供給するヒナや飼料などの投入資材の品質には、しばしばばらつきが見られる。これは生産成績に直結するものであり、仮に鶏肉企業が恣意的に偏った分配を行った場合には、低品質の投入資材を分配された生産者の報酬額は相対的に減少してしまう。つまり、鶏肉企業の一存により、生産者に対してペナルティを課すような対応も取ることができる。
(2)鶏肉企業から契約生産者への強制的な設備投資要求
 鶏肉企業が契約生産者に対し、設備の水準を高めることを求めることがある。設備投資が生産性の向上に寄与することもあるが、増加する債務負担に収入が見合わないことも多い。設備投資の目的、投資のリスクとリターンに関する情報が生産者に与えられず、前述のとおり有利な立場にある鶏肉企業によって、生産者は半ば強制的に設備投資に踏み切らざるを得ないこともあるとされる。

3 改正規則案の内容と業界の反応

(1)改正規則案の内容
 以上の問題点を踏まえ、USDAは、(1)鶏肉企業が契約生産者の比較・順位付けによる報酬額の減額の禁止、(2)鶏肉企業による生産者の比較・順位付けの仕組みの公正な設計および運用とそのプロセスの文書化の義務化、(3)鶏肉企業から生産者への設備投資要求時の関連情報の開示の義務化を規定する規則案とした(表)。
 生産成績の向上や生産コストの抑制による報酬額の増額だけで、生産者が生産性を高めるためのインセンティブが十分に働くものであるとし、鶏肉企業が生産者への報酬額を不適切に減額する可能性を排除すること、設備投資を要求する場合の目的や生産者の経済的インセンティブなどの明確化による契約生産者と鶏肉企業との公正性を確保することが目的である。
 本改正規則案のパブリックコメントには、6月10日から8月9日までの期間が設けられており、USDAは幅広く意見を求めている。
改正規則案の内容
(2)業界の反応
 生産者を主な会員とするアメリカン・ファーム・ビューロー・フェデレーション(AFBF)や全米農業者連合(NFU)は、今回の規則案は生産者が公平に扱われ、それぞれの努力に見合った適正な報酬額を受け取ることできるようになるものであり、現行システムの懸念の多くを払拭するものであるとして、高く評価した。
 一方で、鶏肉企業を主な会員とする全米鶏肉協議会(NCC)は、政権が食品価格の高騰を食品企業に責任転嫁しているに過ぎないとした。そして、今回の規則案は個々の契約を画一的なものにさせることで競争力を低下させるだけでなく、消費者の負担を増大させるものであり、全面的な見直しを要求するとして、強い反発の姿勢を示した。
【調査情報部 令和6年6月21日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4383