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豪州業界団体、穀物輸送の強化に向けたロードマップを公表(豪州)

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 豪州の穀物輸送業界団体であるグレイングロワーズ(Grain Growers)は6月7日、豪州産穀物の世界的な競争力を高めるための業界のロードマップである、「国家穀物輸送戦略(National Grain Freight Strategy)」を公表した。
本戦略の目的についてグレイングロワーズのタートン会長は、小麦の輸出競合国であるロシアやウクライナの小麦と比較して、豪州産は高コストであること(表)を例示し、豪州産穀物の国際競争力を高めていくためには、サプライチェーンの効率化に向けた統一的なアプローチが必要であるとしている。
 豪州政府は、2019年に「国家輸送・サプライチェーン戦略(The National Freight and Supply Chain Strategy)(注1)」を初めて策定し、現在その見直しに向けた作業が進められている。今回の公表を通じてグレイングロワーズは、豪州政府に対して穀物サプライチェーンへの投資や、戦略の適切な見直しを要請していくとみられる。
 
(注1)豪州政府が19年に策定した貨物輸送に関する長期戦略。40年までの貨物輸送におけるサプライチェーン全体が取り組むべき課題を包括的に示した内容となっている。5年ごとのレビューが義務付けられており、24年中に戦略の見直しが図られる予定。
表 各国における穀物輸出サプライチェーンのコスト比較(小麦)
 豪州の穀物生産は、夏作物(3〜6月収穫)と冬作物(10〜1月収穫)に大別され、生産量の9割を占める冬作物(小麦、大麦など)のうち、約7割が輸出に向けられている(図)(注2)
 グレイングロワーズは、豪州連邦科学産業研究機構(CSIRO)が開発したTraNSIT(注3)を用いてコストを試算したところ、輸送経費は穀物サプライチェーンにおける最大のコストであり、年間21億豪ドル(2228億円)に及んでいると報告している。この背景には、州ごとに異なる鉄道・道路貨物の管理規則や貨物ルートの不十分な耐候性、大型車の利用を妨げる橋梁の重量制限にあるとしている。特に過去最大の冬作物の生産量を記録した22/23年度には、輸送部門の対応が間に合わず、追加コストが多く生じたとしており、これが今回の戦略の策定につながったとみられる。

(注2)「畜産の情報」2023年7月号「豪州における近年の飼料穀物需給動向と見通し」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002811.html)もご参照ください。
(注3)貨物輸送のサプライチェーンの効率を改善し、適切な物流投資を選択するために用いられる分析ツール。サプライチェーンの経路ごとに、移動距離と時間、車両構成、道路状況、ドライバー規制など考慮した最も費用対効果の高いルートをデータから推定することが可能。
図 豪州の冬作物の穀物サプライチェーン(2022/23年度)

国家穀物輸送戦略の概要

(1)交通インフラへの投資
生産者の大規模化により、農場の貯蔵施設から直接、港湾などに道路輸送される割合が増えている実態を踏まえ、速やかな国道の整備が必要。また、「復興への道プログラム(Roads to Recovery Program)(注4)」に基づくインフラ資金への増額を求める。
 
(2)道路規制への対応
「大型車両国家法(HVNL:Heavy Vehicle National Law)」の改正を求める。具体的には、高生産性貨物自動車(HPFV)(注5)の許可要件の緩和、道路アクセスに関する地方の権限強化など。
 
(3)橋梁インフラの改善
耐用年数を迎える橋梁の荷重制限が効率的な輸送の妨げとなっていることから、貨物輸送量の多いルート上の橋梁を特定し、効率的な橋梁の改修を進めることが、早急な対策として必要。
 
(4)鉄道輸送の利便性向上
現在の鉄道インフラは局地的で地域間の相互ネットワークが発達しておらず、コスト増の一因となっている。重要な鉄道貨物輸送路の改修に的をしぼった資金拠出や、鉄道インフラ事業者間の車両アクセス協定の緩和などが必要。
 
(5)港湾システムの効率化
効率的な港湾システムの構築は、生産量に占める輸出割合が高い豪州の穀物サプライチェーンにとって特に重要である。短期的には、ターミナルチャージ(港湾の取扱手数料)を含む港湾規制の一貫性の向上など、豪州政府による全国的に統一した関与を求める。
 
(6)貨物輸送の脱炭素化
貨物輸送は、温室効果ガス(GHG)の排出削減が特に求められる産業として、段階的な削減が必要である。早急にとる必要のある措置として、「国家貨物・サプライチェーン戦略」に脱炭素化を確実に盛り込むことや、穀物の鉄道輸送を奨励する国家モーダルシフト計画の開発などがある。
 
(注4)国土交通法に基づく資金提供プログラム。地方自治体は、当該プログラムを通じて道路関係のプロジェクトに対して資金を拠出することができる。2019/20年から23/24年までの5カ年で、約1万5000件のプロジェクトが採択された。
(注5)全長26メートル以上、または車両総重量が68.5トン以上の大型車両を指す(州によって若干規格が異なる)。性能評価基準(Performance Based Standard)に基づき、安全性などの審査を合格した車両のみ利用できる
【渡部卓人 令和6年6月25日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9532