ポーランドとウクライナ、酪農部門で協力(EU)
ポーランドとウクライナは2024年6月17日、政府関係者を含む両国の酪農部門代表者らにより会談し、2国間の酪農部門の協力を促進する覚書(MoU:Memorandum of Understanding)に署名した。署名に際してウクライナ農業政策・食料省のカンツラク次官は、「ポーランドの酪農部門との協力関係の深化は、ウクライナにとって重要な課題の一つ」とした上で、「両国の酪農部門にとって新たな一歩となる」と期待感を表わした。現在、ウクライナの59社がEU向け乳製品輸出許可を取得している。
覚書の概要
今回の覚書への署名により、ポーランドとウクライナでは以下の点で協力が行われる(表1)。
特にポーランドは、EU加盟時の酪農産業の経験をウクライナと共有し、ウクライナの酪農分野の法律をEUの規程に適合させるための協力を進めるとしている。また、EUと障壁の無い貿易が実現できるよう、乳製品に特化した協力にも合意したほか、需給や規制変更に関する情報交換やウクライナ・ポーランド間のイベント共催も行うとしている。
覚書の重要性
今回の覚書の締結は、ポーランドの酪農部門が主導的な立場で、EU加盟時に得た経験や知識、情報などをウクライナと共有することを、ポーランドやEU当局を始め、他のEU加盟国にも示すものである。
ポーランド農業・農村開発省のクライヤスキ副大臣は、かつて同国のEU加盟が、EU市場にとって脅威になると恐れられていたことを取り上げ、「加盟後も脅威となるような事実はなく、このようにウクライナとポーランドが協力して第三国への乳製品の輸出に取り組むことで、両国の競争力をさらに高める可能性がある」と述べ、ウクライナとの協力関係の必要性を示した。
また、ポーランド牛乳商工会議所のマリシスカ理事は、ウクライナのEU加盟には一定の期間が必要になることは承知しているとした上で、「この間に両国の酪農部門の規則や条件を整理し、情報・知識・経験を共有することで、第三国市場に向けた輸出国の地位を確立することが本覚書の目的だ」と語った。
ウクライナのEU加盟交渉は、モルドバの同交渉と合わせて6月25日に開始された。ウクライナのゼレンスキー大統領は「EU加盟への大きな一歩となる歴史的瞬間だ」と歓迎し、モルドバの加盟交渉開始についても「欧州の価値を支持するすべての国が一致団結する必要がある」としている。
ポーランドおよびウクライナの乳製品主要5品目の輸出の実態
両国の2023年の乳製品主要5品目の貿易については、ポーランドは脱脂粉乳以外の4品目でウクライナの輸出量を上回っている(表2)。中でもチーズおよび飲用乳は大幅な輸出超過の状態にあり、ウクライナのEU加盟が実現し、両国が単一市場になると、さらに輸出量が増加する可能性がある。
一方、現在、ウクライナの主要輸出先は中東やアフリカ諸国である。同国のEU加盟により、EU域内市場への輸出が容易となることで輸出量が増加し、また、EU産という価値が付加されることで、第三国への輸出機会の増加も期待される。
【渡辺 淳一 令和6年6月28日発】
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