カナダ政府、畜産課税猶予措置の対象区域を拡大(カナダ)
カナダ農業•農産食料省(AAFC)は6月14日、畜産業者への畜産課税猶予措置(Livestock Tax Deferral)について、対象区域の拡大を公表した(図1)。
畜産課税猶予措置とは、干ばつなどの影響で早期出荷を余儀なくされた生産者に対し、販売収入の一部を翌年度まで繰り延べることを認めた税制面での優遇措置である。例年は10月以降に対象区域が公表されるが、今年度は早期に公表が行われたことに加え、今回新たに、気候状況や生産状況などに応じて、指定区域(注)に隣接する地域をバッファーゾーン(緩衝地域)として対象区域に追加し、幅広い生産者に適用が及ぶよう適用範囲の改正がなされた。これにより、西部の主要肉牛生産地域であるアルバータ州の大半が対象区域に該当し、サスカチュワン州では州の西側と北部が対象区域とされている。カナダ政府は、今後も基準を満たす地域があれば、対象区域の追加認定を行うとしている。
同措置の適用となる対象者は、飼養する繁殖雌牛頭数が1年間で少なくとも15%以上減少していることが条件とされる。そのうち、減少率が30%未満の場合、対象者は販売収入の3割を翌年度まで繰り延べることができる。さらに、減少率が30%以上である場合は、販売収入の9割を繰り延べることができる。これにより、今年度の販売収入の一部を翌年度の繁殖雌牛などの導入費用と相殺することができるため、早期出荷に対する税負担が軽減される。
今回の公表を受けてカナダ肉用牛生産者協会(CCA)のフィニー会長は、長年、同措置の影響を受けるすべての生産者に適用されるよう、規則の改正を訴えてきたとした上で、「カナダ政府が我々の懸念に対応し、生産者にとって有益な解決策を見出すための具体的措置を講じたことに勇気づけられた」として謝意を表した。また、「今回の早期公表によって、影響を受ける生産者が自らの経営について早い段階で判断することができる」と述べ、経営への貢献を強調した。
(注)畜産課税猶予措置の指定区域は、干ばつなどにより飼料の単収が長期平均の50%未満となっている地域の中で、各種データに基づき州政府や産業界と協議の上認定される。
【海外情報】「カナダ政府、干ばつなどの被害で畜産業者への課税猶予措置を適用(カナダ)」を参照ください。
干ばつの状況と牛肉生産量の見通しについて
最近のカナダ国内の干ばつ状況を見ると、2023年8月末時点で国土全体の約67%が異常な乾燥もしくは干ばつに見舞われた。直近24年5月末時点では、前年よりは若干の改善がみられるものの、西部地域を中心に約45%で干ばつが続いている。
肉牛生産に関しては、同国の肉用経産牛頭数全体の6割以上を西部アルバータ州とサスカチュワン州の2州で占めており、両州の生産が肉牛飼養の動向を大きく左右する構造となっている。カナダ統計局(Statistics Canada)によると、西部の主要肉牛生産地域を中心とした干ばつの影響により、2024年1月1日時点の牛の総飼養頭数は1106万頭(前年同月比2.1%減)と減少し、1989年以来の低水準となっている。また、内訳を見ると、繁殖雌牛(肉用牛)が同2.4%減、子牛が同3.0%減となっていることから短期的な増頭は見込めず、牛肉生産の短期的な回復も見込めない。24年のカナダの牛肉生産量について米国農務省海外局(USDA/FAS)は、飼養頭数が減少する中で、前年比4.9%減の127万5000トンと予測している。
【伊藤 瑞基 令和6年7月4日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:調査情報部国際調査グループ)
Tel:03-3583-9805