豪州政府、小売大手に対する食品・食料品の行動規範を義務化へ(豪州)
豪州連邦政府は6月24日、食品・食料品行動規範(以下「行動規範」という)(注1)の見直しに関する報告書で示されたすべての勧告を受け入れ、行動規範を強化すると発表した。
行動規範は、「競争・消費者法(Competition and Consumer Act 2010)」に基づき、2015年に導入された任意規定であり、また、罰則が適用されないことなどから、これまでその効果は限定的とされていた。今回の見直しにより、小売大手に対する行動規範の義務化、罰則規定の適用、生鮮食品規則の改善などが図られ、自主的制度から大きく刷新されることとなる。
行動規範の見直しには競争・消費者法および関連規則の改正が必要であり、連邦政府は明確な見通しを示していないが、優先的に取り組むとしている。
(注1)豪州の小売業者と小規模食品事業者間の価格交渉力の不均衡を是正するため、2015年に導入された業界の行動規範。小売店に対して価格交渉に関する最低限の義務と行動基準を定めているが、規範への署名は任意となっている。
価格形成をめぐる動向
豪州の食品・食料品小売業界では、大手スーパーマーケット3社が75%以上の市場シェア(占有率)になっており(図)、以前から食品企業(生産者を含む)と小売間の価格交渉力に大きな格差があることが問題視されていた。
行動規範が導入された2015年以降もこの問題は一貫して指摘されている。
特に昨年来の高インフレなどにより、食品企業や生産者からの声がさらに高まったことを受け、豪州競争・消費者委員会(ACCC)による緊急市場調査の実施や上院での特別委員会の設置など、市場価格の透明性向上に向けたさまざまな施策が講じられている。
(注2)
本見直しに関する報告書は、担当大臣に任命された独立審査官が毎年作成するとされているが、このような背景もあり、今回の法改正を伴う勧告につながったものとみられる。
(注2)「畜産の情報」2024年3月号「豪州の畜産農家における経営収支実態と所得向上の取り組み」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_003137.html)もご参照ください。
主な勧告の内容
本報告書では11の勧告がなされており、以下の5項目に大別される。
(1)年間売上高が50億豪ドル(5450億円:1豪ドル=109.00円(注3))を超えるすべての小売店に食品・食料品行動規範を義務付けること。
(2)報復行動の防止に向けた対策を講じること(ACCC内に匿名の通報システムを設置、小売店内の監視体制構築の義務化など)。
(3)紛争解決プロセスの明確化(調停人の任命、紛争に関する年次報告書作成の義務化など)。
(4)悪質性が高い違反行為に対して、1000万豪ドル(10億9000万円)もしくは違反行為により得られた利益の3倍(利益が確定しない場合は、過去12ヵ月間の売上高の10%)のいずれかを最大とした罰則を規定すること。
(5)生鮮食品に関する問題に対処するため、行動規範で食料品供給契約に対する価格決定根拠の明示、生産体系を考慮した必要量の予測、合理的な規格と仕様の設定などを義務付けること
(注3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年6月末TTS相場。
業界の反応
豪州の生産者団体である全国農民連盟(NFF)のトーマスCEO(最高経営責任者)は、「農家側が報復を恐れることなく小売側と交渉できる仕組みができたことは良いこと」と本見直しに賛同している。
一方で、牛肉や羊肉産業などの政策決定機関であるレッドミート諮問委員会(RMCA)は、「小売店と契約している多くの赤身肉供給業者は長年の関係を築いており、すでに紛争解決への効果的なアプローチを有していることから、規範の義務化はその関係を破壊する恐れがある」と懸念を表明している。
【渡部卓人 令和6年7月3日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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