中国農業農村部、畜種や野菜など種苗振興に関する政策の中間総括を実施(中国)
中国農業農村部は2024年6月7日、21年7月に策定された「種苗業振興行動方策」(以下「方策」という)について、この3年間の成果を総括するための「種苗振興プロジェクトの加速および遺伝資源悉皆(しっかい)調査の総括に関する視聴会」を非公開で開催した。この中間総括は、「1年目は良い出だしを、3年で基礎を打ち立て、5年で成果を出し、10年で重大な突破を実現する」という、同方策達成に向けたスローガンに基づき実施されたものである。
視聴会では、方策と歩調を合わせて同部が実施した種苗資源の悉皆調査の報告のほか、地方政府による取り組み例の紹介、最高人民法院(日本の最高裁判所に相当)による種苗に関する知的財産の保護についての講話などが行われた。
種苗業振興行動方策の概要
「方策」とは、2021年当時、習近平国家主席が主催する中央全面深化改革委員会で審議、策定された、種苗資源および種苗産業に関する長期的な政策方針ことであり、種苗には耕種に関するもののほか、畜産および水産に関するものを含む。1962年に出された「種子関係業務の強化に関する決定」に次ぐ重要な種苗業に関する政策方針とされ、21年当時の農業農村部長は、方策の策定を「我が国の種苗産業発展史の里程標とも言うべき一大事案である」と評した。
また、農業農村部は方策策定前の21年3月、「全国農業種苗資源の悉皆調査全体方策(2021―2023年)」を公表した。3年の期間をかけて全国規模で網羅的な資源調査を行おうとするものであり、農作物、家畜および家きん資源は3回目の、水産資源は初めての調査である。
方策および悉皆調査の最終的な政策目標は、(1)新たな種苗関連技術の促進、種苗関連企業の競争力の強化、また、(2)これらを通じて種苗関連産業が不断に革新を続けられる環境の整備・引き上げを行うこと、ひいては、(3)食料の安全保障や農畜産物の安定供給に向けた基盤の整備を行うこと、とされている。
方策の3年間の成果
同日に新華社通信が公表した農業農村部への取材内容によれば、3年間の成果として次のことが紹介された。
(1)資源の保護・利用の新たな進展
悉皆調査には延べ150万人余りが携わり、農作物については農業県(県は日本の市町村に相当。市、区、旗、団場を含む)を中心とした2325カ所の地域に及び、家畜・家きんについては62万5000の行政村、水産物については92万の養殖場が対象となった。これにより、新たに収集された農作物資源は13万9000個、家畜・家きんの遺伝資源素材は107万サンプル、水産物の遺伝資源素材は12万サンプルに達した。
調査の過程で、「紅提灯豚」(中国語では「紅灯籠猪」。江蘇省特有の豚の固定種であるか他系統の一種であるかが疑義となっていた)など51の家畜・家きん(蜂を含む)の資源が新たに発見または同定され、絶滅が宣言されていた10種が再発見され、また、絶滅危惧種に当たる61の家畜・家きんと746の農作物資源に対して緊急的な保護措置が行われた。
(2)国内遺伝資源の産業利用の進展
この3年間で、固有品種の産業利用例が増加した。例えば、食肉用のニワトリについては、従来、外国由来の遺伝資源が国内食肉用ニワトリ種苗市場の100%を占めていたが、この3年間で固有品種である「聖澤901」「広明2号」および「沃徳188」の3種類が、同市場の25%以上を占めるに至った。
また、油糧作物については、中国の遺伝子組み換え技術を利用して開発されたオレイン酸含有量の高い大豆が、農業農村部から遺伝子組み換え植物に対して発行する生産応用安全証書を獲得した。ほかにも、油成分含有率の高い九つの大豆品種が開発されており、中でも「中油早1号」は、裏作で短期間で栽培される油糧作物として歴代最高の産出量を記録した。
そのほか、国産ブロッコリー品種の市場占有率が5%から35%に上昇、国内育種品種である南アメリカ白エビが同35%に到達するなどの成果があった。
(3)国内種苗産業の牽引力の強化
国内の種苗産業は企業数が多く、規模も小さく、新品種などの開発力も弱いという課題があるため、農業農村部は2022年、種苗に携わる3万余りの企業の中から、69の農作物種苗会社、86の家畜・家きん種苗会社、121の水産種苗会社を選定し、集中的に金融、科学技術および産学連携などの支援を実施した。
育種については、方策のほか育種に関する重大プロジェクトなど複数の政策が進行しており、企業を中心とするゲノム編集、全ゲノム情報を利用した選抜技術などの応用や産学連携の緊密化などが進展を見せている。例えば、すでに「北京峪口禽業」社は産卵用ニワトリの育種で世界3位内に入っており、「先正達」社および「隆平高科」社も農作物の種苗で世界10位以内に入っている。このため、中国の種苗企業の発展は、この3年で新たな段階に入ったと言える。
また、農業農村部は、「真水を投入し、2020年には70%に留まっていた国産種苗の供給割合を75%に増やす」として、この3年間で種苗育種基地の整備の優良化を進め、216の農作物種苗育種基地を整備したほか、300の家畜・家きん育種基地・拠点で優良品種の繁殖のネットワーク化を行った。また、「南方育種シリコンバレー」(注1)のほか、四川省の水稲、黒竜江省の大豆などの育種基地において、育種に留まらず、単収を上げるためのかんがい施設や、加工、備蓄および物流機能の整備などを行った。
(注1)「南方育種シリコンバレー」(中国語では「南繁硅谷」)とは、水稲、トウモロコシ、綿花などの夏季作物について、秋の収穫後、それらを育種素材として海南島など中国の南方地域に移動させ、繁殖と選抜を行うことで、育種に必要な期間の短縮、耐病性、対湿度、対光源反応などの鑑定などなどを実施し、育種の競争力を高めようとする政策のこと。2024年1月、中国政府の公式ホームページで新華社通信の報道として、農業農村部が近日中に「国家南方育種シリコンバレー建設規画(2023―2030年)」を発出する予定であることが掲載されている。
(4)種苗市場の浄化が新記録を更新
2022年に中国種子法
(注2)が改正され、派生品種が実施的に保護される制度が確立してから、中国の種苗に関する知的財産の保護レベルが向上している。この3年間、農業農村部は最高人民法院、公安部などと連携して偽造品や劣悪品の取り締りを実施し、合計で6回、不適切に登録された育成者権の取り消しを行い、ひまわりについては偽造品や劣悪品を市場から完全に締め出した。
(注2)「中国種子法」の日本語訳は、JETRO(中国)「知的財産に関する情報」(https://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/ip/law/)をご参照ください。
【調査情報部 令和6年7月9日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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