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コスト上昇などで韓牛生産者減少、政府などに支援を要請(韓国)

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韓牛肉消費動向

 韓国肉牛のチェックオフ(注1)機関である韓牛(注2)チェックオフ管理委員会はこの程、「2023年韓牛肉消費動向モニタリング」結果を発表した。この中で、消費者の牛肉消費機会について、「家族との外食」が全体の90.9%と最も高い割会となった。
 また、家庭消費として牛肉を購入する際、「安全性」(前年比2.5ポイント上昇)と「信頼性」(同2.3ポイント上昇)を重視する割合が上昇した一方、「価格」(同3.4ポイント低下)と「原産地」(同1.5ポイント低下)を考慮する割合は低下した。さらに、韓国産牛肉である「韓牛肉」を選択する割合が74.5%(前年比5.9ポイント上昇)と最も高く、その他の牛肉に対する選好度は相対的に低くなる傾向を示した。
 外食時に選ばれる牛肉の種類としても、「韓牛肉」が55.7%と最も多く、その他の牛肉、米国産牛肉、豪州産牛肉などはそれぞれ10%前後という結果となった。これらの結果により、外食および家庭消費において、韓牛肉に対する安定的な需要が表れている。
 ただし、外食1回あたりの韓牛肉1人当たりの平均支出額は、前年比約3300ウォン増の5万6000ウォン(6630円:100ウォン=11.84円(注3))となったが、同平均韓牛肉消費量は前年比3.6グラム減の294.3グラムとなっている。

(注1)特定の農畜産物について、対象品目の生産者から拠出金を集め、販売促進活動や市場開拓、調査研究などを行う仕組み。
(注2)韓国の在来種を元に作られた肉牛
(注3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年6月末TTS相場。

コスト上昇で減少が続く韓牛生産者

 韓牛肉に対する一定の消費需要がある中で、景気後退による韓牛価格の下落や生産コスト上昇により、韓牛生産者の廃業が増えていることが、韓国統計庁の家畜動向調査により判明している。2024年第1四半期の韓牛生産者戸数は8万2227戸となり、前年同期から4695戸(前年同期比5.4%減)減少した(表)。現地報道によると、韓国での景気後退の影響は畜産業全体にも波及しており、韓牛生産者からは、繁殖や肥育農家を含め、特に小規模繁殖農家や100頭以上の肥育農家などで従業員の解雇が進むことを懸念する声が高まっているとされる。
表1 韓国国内
 価格下落の要因については、米国や豪州とのFTA協定に基づく牛肉の輸入関税の引き下げにより、牛肉輸入量が増加する中で、輸入牛肉との価格競争などによるものとみられる。
 生産コストの上昇要因については、飼料価格の高騰や口蹄疫などの疾病発生に伴うワクチン接種回数の増加などが挙げられている。韓国統計庁が最近発表した「2023年家畜生産コスト調査」の結果によると、韓牛生産者は、牛を出荷するたびに大きな損失が出ており、それぞれの収支を見ると、子牛1頭につき128万6000ウォン(15万2262円)、韓牛肥育農家は肥育牛1頭につき142万6000ウォン(16万8838円)、その他肉牛農家は202万ウォン(23万9168円)失っているとされる。

韓牛生産者への支援を求めて全国集会

 このような中で韓国牛肉協会は2024年7月3日、首都ソウルの国会議事堂前で韓国牛肉産業の安定化を訴えるために全国集会を開いた。集会には、国内各地から会員の約半数に当たる1万2000戸以上の生産者が参加した。参加者らは、国会や政府、全国農業協同組合に対し、韓牛価格の下落と飼料価格高騰により、農家が直面している深刻な状況を伝えるとともに、(1)韓牛肉の価格安定化制度の創設、(2)飼料価格の即時引き下げ、(3)借入金返済期間の延長と飼料購入資金などの政策資金の償却、(4)韓牛生産者のための危機管理安定化基金の設置、(5)生産コストの一部負担、(6)輸入畜産物に対する輸入禁止措置の設定(BSE発生国からの牛肉の輸入禁措置止など(注4))など、韓国の牛肉生産者の経営を安定させるための対策を講じるよう訴えた。
 参加した生産者からは、「3年前から韓牛肉価格が下がり始め、肥育牛を出荷するごとに赤字が出ている」「韓牛肉価格は下がったが、飼料価格の高騰で牛を育てる意欲はない。現在50頭の牛を飼育しているが、このままでは廃業も考えている」といった声が上がった。
 同協会は、「農民の幸福を約束した尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領と、農民の幸せのために存在する全国農業協同組合は、それぞれの役割を果たせていない」とした上で、政府に対し「韓国牛肉法(注5)を制定し、飼料価格を引き下げる」よう求めた。集会に出席した議員からは、廃案となった韓国牛肉法を国会で新たに審議することが示されており、今後の政府の対応に注目が集まっている。
(注4)海外情報「フランス産・アイルランド産牛肉の韓国向け輸出が23年ぶりに解禁(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003857.html)をご参照ください。
(注5)韓国の畜産農家を支援する「持続可能な韓国牛肉産業支援法案」(韓国牛肉法)が2024年5月に国会本会議を通過したが、尹大統領の拒否権により廃案とされた。
【田中 美宇 令和6年7月10日発】
このページに掲載されている情報の発信元
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