生乳取引に関する新たな規則が施行(英国)
英国で2024年7月9日、酪農生産者と乳業会社の生乳取引契約について、乳業会社による一方的な契約変更の防止を盛り込んだ「生乳の公正取引に関する規則(FDOM24:The Fair Dealing Obligations (Milk) Regulations 2024)」が施行された。
同規則は、同日以降に締結される契約に適用されるほか、既存契約についても1年間の移行期間を経て、25年7月9日までに適用される。
規則制定の背景
2009年の英国大手乳業会社DFB(Dairy Farmers of Britain)の破たんや、その後の生乳価格の下落などを受けて、生産者団体などは生乳取引契約に関する統一的な規則がないことで、生産者が不利益を受けているとして生乳取引契約の改善を求めるキャンペーンを実施した。20年に政府と業界団体で行われた協議では、業界団体は乳業会社が生乳取引契約を一方的に変更できるという実態を問題視し、改めて生乳取引契約の整備を求めていた。
規則の内容
今回の規則には、21日間のクーリングオフ(注)期間を設けることが義務付けられており、その間、生産者は違約金なしで契約を終了できる(表)。
一方で、乳業会社が契約の終了を希望する場合には、基本的には12カ月以上前に生産者に対して通知する必要がある。
その他、書面による生乳取引契約の締結や取引価格の透明性の確保が義務付けられた。
(注)一定の取引について、契約後に再考する時間を与え、一定の期間内であれば一方的に無条件で契約を解除できる制度。
また、生産者から、乳業会社が本規則の要件を遵守していないとする申し立てがあった場合には、政府が調査を実施し、当該乳業会社への罰則(当該事業年度の売上高の1%を上限とする罰金)に加え生産者に対し補償が行われる。
全英農業者組合(NFU)はプレスリリースの中で、乳業会社は(1)価格または価格設定スケジュールを明確に提示する義務が生じたこと、(2)複数の価格設定方法を契約書内で示し乳業会社の都合の良い方法を採用するようなことは認められないこと、また、(3)当事者の同意なしの契約変更は認められないこと、(4)条件交渉時に生産者間での協力が奨励されること、(5)当事者の一方が契約に違反した時に罰則が科せられるようになったこと、など本規則の概要を解説している。
業界の反応
長年にわたり公正かつ機能的なサプライチェーンの確保のために生乳取引の改善を訴えてきたNFUのトンプキンス酪農委員長は、本規則の施行が英国の酪農家にとって重要な日であると歓迎した上で、「契約違反などに関する当局への苦情の申し立てなどを行えるなど、酪農家がこの規則に適応するために、業界全体で協力していく必要がある」と述べた。
また、ウェールズ農業組合のウォルターズ牛乳・乳製品委員長代理は、「多くの乳業会社は2012年に導入された自主的なガイドラインを遵守していた一方、一部の事業者は強制力がないことを逆手に取り不公正な取引を続けていた」と乳業会社側の問題を強調した。また、「最も重要なことは、強制力を持つこの規則が英国全土の生乳取引契約に適用されることであり、公正な生乳取引基盤が構築されることを期待する」と述べた。
【藤岡 洋太 令和6年7月17日発】
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