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乳牛改良の後れから、ゲノミック選抜のさらなる利活用などを勧告(NZ)

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 ニュージーランド(NZ)の酪農業界団体であるDairyNZは2024年7月8日、昨年11月に設立した作業部会(Industry Working Group)を通じて乳牛の遺伝的改良の進捗評価に関する報告書を公表した。
 本報告書は、NZが乳牛の遺伝的能力に関し、国際競争力を維持できるよう、現状の評価およびより効率的な乳用牛群の遺伝的改良手法の検討を目的に作業部会により実施された調査の結果である。作業部会は産官学の有識者によって構成され、遺伝学分野の専門家へのインタビューなどを通じて、NZの乳牛改良の現状や遺伝評価システムの実効性、具体的な勧告をまとめている。
 報告書によると、NZの乳用牛群はゲノミック選抜(注1)が普及した2010年代初頭から、他国と比較して遺伝的改良量(注2)の増加率の遅れが顕著になっていることが明らかにされた(図)。この理由として、他国がゲノミック選抜の活用により種雄牛の平均世代間隔の短縮に成功しているのに対し、NZでは、ゲノミック選抜された若齢種雄牛の利用が広がらなかったためとしている。
 
(注1)個体の全ゲノム情報を利用して遺伝的価値を評価し、改良の効率を高める手法。若齢時から能力評価が可能となり、早期選抜による世代間隔の短縮などの効果がある。
(注2)改良によってもたらされる優れた遺伝的特性の集団平均の変化量。最大化するためには、選抜圧の強化、データ精度の向上、世代間隔の短縮などが必要となる。
図 ホルスタイン種における遺伝的改良量の推移
 NZでは、雌牛の60%以上が交雑種であり、雄牛の多くも交雑種(ホルスタイン種とジャージー種)が利用されているため、単一品種と比較して、信頼性の高い遺伝情報を得るためには、より規模の大きいゲノム参照母集団(注3)が必要とされている(表)。特に遺伝率の低い形質を評価するためには、約40万頭が適切とされるが、NZの業界団体、民間企業いずれもこの規模の母集団を持っておらず、ゲノミック評価の信頼性が得られなかったことで、新たな若齢種雄牛の利用が進まなかったと分析している。
図 単一品種および多品種の有効なゲノム参照母集団のサイズ
 また、規模拡大による表現型(注4)データ(分娩日数など)の質の低下、初期にゲノミック選抜された種雄牛が遺伝的不良形質(注5)を持っていたことなども一因としている。
 
(注3)個体SNP情報(SNP:一塩基多型DNAマーカー)および経済形質(乳量など)、育種価(遺伝的能力の度合いを数値で示したもの)のデータを持っている集団を指す。集団の規模が大きくなることで、より信頼性の高いゲノミック評価が可能となる。
(注4)遺伝子と環境の相互作用によって表現される、個体の観察可能な特徴や形質。
(注5)何らかの原因で遺伝子が突然変異を起こし、正常に機能しなくなった変異遺伝子により引き起こされる疾患を指す。乳牛では、BLAD(牛白血球粘着性欠如病)などが知られている。

報告書の3つの勧告

 本報告書では乳牛改良の加速化に向けて3つの勧告がなされている。
 
 (1)国家繁殖目標(NBO)(注6)の役割と影響力の強化
 家畜の遺伝的評価を行う専門機関であるNZAELは、NBOの方向性と現行の遺伝改良システム、業界ニーズが上手く整合するよう、新たな改良形質(GHG削減につながる形質:排尿頻度など)の定義づけやNBOへの組み込みを主導すること。また、繁殖価値(BW:Breeding Worth)(注7)の向上と酪農家の収益性向上との関係性などについて定期的に分析すること。
 
(注6)飼料効率の高い乳用牛群の作出を第一義とした乳牛改良の目標。2022年の大幅な見直しにより、繁殖価値(BW)の更新などが行われている。
(注7)NZで用いられている乳牛改良の選抜指数。収益性の向上に資する生産性や繁殖能力などをランク付けした指標。

 
 (2)表現型データの質の向上
 乳用牛群からのデータ収集体制を強化するとともに、質の高いデータを収集した農場には何らかのインセンティブを与えるなど、生産者サイドからの積極的な協力を促し、信頼性の高いリファレンス(準拠)集団を構築すること。
 
 (3)ゲノミック選抜の利活用に向けた環境整備
 NZAELは、民間の育種会社のゲノミック評価などの信頼性をモニタリングし、監査するためのデータを保有すること。また、現在、大手育種会社が提供している個々のゲノム育種価を統合し、全国一律の基準をつくるためのシステム開発を推進すること。
 
 DairyNZのプール会長は、本報告書はNZの乳牛改良が世界的に遅れていることを的確に指摘し、すべての関係者が行うべき事柄が明確になっているとして称賛した。今後、本勧告に対する進捗評価を行うため、3カ月後に再度会合を開く予定としている。
【渡部卓人 令和6年7月19日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9532