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再選の欧州委員長、農業生産者の立場強化を優先課題に(EU)

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 欧州議会は7月18日、欧州委員会のフォンデアライエン委員長の再選を賛成多数で承認した。再選に必要な過半数361票に対し、賛成票は401票であった。

次期欧州委員会の農業政策の方向性

 同委員長は、信任投票前に次期欧州委員会(2024年〜29年)に関する「欧州の選択」と題した指針を発表し、演説を行った。域内産業の競争力強化や欧州グリーン・ディールで掲げた目標の堅持、これらの実現に向けた投資の強化などを重要項目とし、農業政策に関して次の主張を行った。
  • 欧州の質の高い生活を維持し、世界の食料安全保障が実現されるため、域内900万戸の生産者と関連する農業食品部門は欠かすことのできない戦略的資産である。
  • この資産を維持するためには、生産者が公平で十分な収入を得ることが重要であることから、共通農業政策(CAP)を維持して予算を確保しつつ、バリューチェーン上の立場強化、インセンティブの提供、投資促進、規制のバランスが取れた政策を実行する。
  • その政策実行のため、現在進行中の「EU農業の将来に関する戦略対話」内で受けた提言をまとめ、次期欧州委員会発足後、100日以内に「農業と食料に関するビジョン」を発表する。
  • また、持続可能性への配慮も継続しなければならない。森林、湿地、草原は、私たちの故郷かつ生活の風景だけではなく、気候変動を防止し、食料と水の安全保障を確保するために不可欠なものである。国際的な生物多様性の公約を達成するため、インセンティブを提供し、公平で効率的な保護政策を実施する。特に環境保全に配慮する家族経営の生産者を支援し、2050年までのネット・ゼロを目指す。

最近のEUの動き

 現在EUでは、関係団体などにより構成される「EU農業の将来に関する戦略対話」が2024年1月に立ち上がり、生産者の適切な所得、環境保護と両立する農業支援策、先端技術の活用やEU農業の国際競争力といった課題が議論され、夏ごろに報告書が提出される見込みである。
 また、農産物のサプライチェーンにおける価格と価値の配分の透明性の向上を目的に、各国の関連当局および業界団体からなるEU農業・食品チェーン監視機構(AFCO:Agri-Food Chain Observatory)の初会合が7月17日に開催された。同会合では今後、コスト構造、マージンや付加価値の配分を評価・監視するための方法論の開発などについて議論が行われることとなっている。
 前述の「農業と食料に関するビジョン」には、これらの結果などが反映されるものとみられる。

関係団体の反応

 同委員長等の発言を受けて、EU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca)は、農業を戦略的資産と位置づけただけではなく、不均衡な取引慣行からの生産者の保護、競争力の維持、技術革新の促進、収入確保への取組について、具体的に言及したことを評価した。併せてCAP予算の確保、貿易政策に農業の重要性を反映させること、環境に配慮する生産者へどのように報いるのか、生産者の世代交代という課題に対して、具体的な政策へ落とし込みと、実行に移すことを期待するとした。
【調査情報部 令和6年7月23日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:調査情報部国際調査グループ)
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