中国農業農村部、家きん産業振興に対する委員からの提言に回答(中国)
中国農業農村部は2024年6月28日、中国人民政治協商会議(政協会議)(注1)において全国委員会の委員である侯水生氏(注2)が同会議で行った「我が国は高品質な家きん産業の発展を優先すべきである」との提言への回答の概要を公表した(注3)。
(注1)全国人民代表大会と合わせて「両会」と呼ばれる中国の最高意思決定機関の一つで、中国共産党が標榜する多党協力と政治協商を体現する重要な会議。
(注2)政協会議の全国委員であり中国工程院院士でもある中国農業科学院北京畜牧獣医研究所の首席科学者
(注3)政協会議の全国委員が会議開催期間中に特定の行政分野に対して提言を行った場合、提言に関する分野の担当政府機関は、その回答を公式ホームページ上で公開することとなっている。
侯氏による家きん産業振興についての提言の概要
目下、高品質な食肉、卵、乳製品に対する中国国民の需要は堅調であるが、その産業構造を見返せば、飼料効率が高い家きん肉について、食肉総生産量に占める割合が33.0%に留まっており、世界平均の43.2%に及ばない。一方、飼料効率が低い豚肉の割合は54.8%であり、世界平均に比べて21.7%も高い。中国のように、人口が多いにも関わらず土地資源が乏しく飼料原料も不足している国では、飼料効率の高い家きん産業を優先的に発展させることが、食料の安全保障のために必要不可欠である。
侯氏はこのような認識に基づき、以下の3つの提言を行った。
(1)政府は「豚肉で国家の食料事情を安定化させる」との考え方を改めるべきである。
過去数十年間、政府は「豚肉至上主義」で、施設整備費も研究費もすべて豚肉に投じ、家きんや伝統的な畜産(羊、ウサギなど)を軽んじてきた。しかし、現在、産業が未発達な地区の農村と農民を支えているのは家きん産業である。
(2)政府による種きん産業への研究予算の増大を期待する。
従来、育種研究と言えば、豚、牛およびブロイラーが対象であったが、今後はこれを改め、国家の技術重点計画やプロジェクトの中に、採卵鶏、アヒルやガチョウなどの育種および飼育技術に関する研究を加えるべきである。特に、高効率な育種技術、遺伝子選抜・ゲノム編集技術、耐病性・高品質育種技術については、専門家を育成することで家きん産業を発展させ、農村振興を促すべきである。
(3)政府が先頭に立って家きん肉の消費を促進すべきである。
侯氏の提言に対する農業農村部の回答の概要
(1)畜産業の構造改善について
農業農村部は、さまざまな方法で食物の供給源を開拓し、家畜・家きん産品の供給能力の向上を図ってきた。家きん産業は、畜産業の中でも規模化、施設化および市場化の程度が最も大きい産業である。
農業農村部は近年、「豚の生産を安定させ、牛・羊を増産し、家きん業を強化し、酪農を振興させる」との考えに基づき、家きん業について、(1)種きん産業の刷新、(2)多層・立体型飼育施設の発展的導入、(3)コールドチェーン建設の推進・加速、(4)家きん生産の施設化・デジタル化と市場競争力向上の全面的な実施、により多様化する消費ニーズに不断に対応してきた。
中国の肉類消費で豚肉が占める割合は減少を続け、2000年の65.5%から23年には57.8%となった。他方で、家きん肉の占める割合は同期間で20.2%から25.5%に上昇し、1人当たり平均消費量も、00年の9.7キログラムから22年の17.5キログラムへと、80%も増加した。これらは今後も増え続け、肉類消費に占める家きん肉の割合は、30年には32%に、1人当たり平均消費量も約22キログラムに達する見込みである。
今後も現代的な家きん飼養システム、健全な動物衛生システム、現代的な加工流通システムの建設を加速することで、家きん産業の高度化を進めていく。
(2)種きん産業および飼育関連技術・研究予算の増大について
農業農村部は、種きん産業および飼育関連技術・研究を極めて重視している。「全国家畜・家きん遺伝資源改良計画(2021―2035年)」に基づき、国費を投じて採卵鶏などを対象に主要繁殖基地の生産能力を測定しているほか、「国家育種連合対策総合方策」に基づき、各地方で特色のある採卵鶏、アヒルやガチョウなど家きんの課題解決に対し、官民を挙げて取り組んでいる。
今後も育種および飼育技術に関する研究への支援を強化していく。
(3)家きん肉の消費促進について
この数年、農業農村部は家きん産品の消費促進に強力に取り組み、畜産技術の推進団体業界団体および国家が有する各種家きん関連産業の枠組みにより、メディアの取材への協力、広報の実施など、科学的な見地から家きんの生産と消費を宣伝してきた。専門家による家きんの栄養や品質安全に関する科学的な知識に基づく解説を行い、成長促進剤投与などに関する消費者の懸念払しょくにも努めている。また、中国畜牧業協会に委託し、ブロイラーを食材とした料理動画を無料で提供し、鶏肉消費を促している。
今後も多様な方法を用いて、家きん肉の栄養価に対する消費者の認識を高め、家きん肉消費が健康的であることを喧伝し、隠れた消費ニーズを掘り起こし、消費が促される市場環境を整えていく。
【調査情報部 令和6年7月30日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9530