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中国農業農村部、肉牛生産の安定化に関する通知を公表(中国)

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 中国農業農村部は2024年6月21日、牛と牛肉の価格が下落する中で、肉牛農家を支援し、牛肉生産を安定化させるための支援として、「肉牛生産の安定化に関する通知」を公表した。

「肉牛生産の安定化に関する通知」の概要

 「肉牛生産の安定化に関する通知」は、次の5つの柱に分かれている。
(1)各支援政策の着実な実施
(2)多様な方策による飼料作物の供給の保障
(3)疾病の予防および管理の強化
(4)食肉の品質および食品としての安全性を確保するための監督・管理の強化
(5)生産状況の観測に基づく予測および指導業務の強化

 このうち(1)および(2)の主な内容を以下に紹介する。
(1)各支援政策の着実な実施
 関係機関は、母牛群の質を向上させ、エサを食糧(トウモロコシや大豆など)から飼料(牧草、稲わらなど)に代え、良質な牧草の生育に関する補助、草原の環境保全に関する補助などの政策を着実に実施すること。特に主要な肉牛生産区では、積極的に地方支援策を活用し、飼養農家、特に繁殖母牛飼養農家への支援を強化することで当該農家による繁殖母牛飼養からの撤退を防止すること。また、金融機関からの支援を積極的に受け、元金返済前の追加融資、合理的な返済期間の延長などを取り付けること。

(2)多様な方策による飼料作物の供給の保障
 関係機関は、その地方の特性を踏まえ、牧草の生産を推進するため、草地、荒廃地、休耕田などおよそ植物が生える土地資源の潜在力を十分に引き出し、肉牛用の飼料供給を増やすこと。また、食糧作物の茎と良質な牧草を配合・保存するなどの方法により、茎類の飼料化率を高めること。さらに、飼養農家への牧草の生産・利用に関する技術指導を強化し、関連マニュアルの普及に努め、牧草の利用効率を高めること。

 本通知公表の背景として、以下に、同部が同月26日にホームページに掲載した現地報道記事の概要を紹介する。

中国の牛肉価格の動向と専門家の見方(6月26日経済日報社)

(1)牛肉価格が下落し続けている原因は、牛肉価格にみられる季節的、周期的な変動要因だけではなく、国内消費の伸びが緩くなったにもかかわらず、牛肉輸入量が増加し、国内の肉牛生産も増加し続けているという需給バランスが取れていない牛肉の需要と供給の構造的な要因にも求められる。

(2)牛肉価格は、短期的には秋・冬の二季に消費意欲が高まるため、季節的、周期的には今後ある程度は持ち直すと期待されるが、牛肉生産量が減少し牛肉価格の向上が確実なものとなるには、2年程度、あるいはより長い期間を要するだろう。

 農業農村部の観測によれば、6月21日の全国農産品卸売市場の牛肉平均価格は1キログラム当たり60.91元(1361円、1中国元=22.34円(注1))であり、1月の同80.41元(1796円)から24.3%下落、6月第2週の価格(同69.96元(1560円))を見ても前年同期比16.4%下落し、今年に入り18週続けて下落するなど、この数年値上がりを続けてきた牛肉価格は、ついに2019年の水準にまで落ち込んだ。また、牛肉価格の下落は、繁殖、肥育、と畜、加工および外食といった牛肉を取り巻く産業チェーンのすべてに影響を及ぼしている。
 肉牛農家の多くは、辛うじて黒字または赤字(注2)であり、主要肉牛生産地域ほど赤字傾向にある。牛肉価格の下落について中国農業科学院農業経済および発展研究所の楊春研究員は、下落が続く期間が長く、また、下落幅が大きいことで、影響の及ぶ産業チェーンが広範にわたっていると指摘している。また同氏は、牛肉だけではなく生乳価格も下落し続けており、生乳生産にも赤字傾向がみられる(注3)ことで、酪農家がコスト割れを防ぐ目的で乳牛淘汰(とうた)の動きが加速していることも、牛肉供給量増加の要因と指摘している。

 (注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2024年6月末日TTS相場である1元=22.34円を使用した。
 (注2)中国新聞週刊は2024年6月26日、中国肉類協会からの聞き取り結果として、中国の牛肉消費量は23年に1027万トンに達し、米国に次ぐ世界第2位、牛肉生産量も政府計画が定める年平均1%を超える速度(22年は前年比2.8%、23年は同4.8%、24年第1四半期は前年同期比3.4%)で成長し、インド、ブラジルに次ぐ世界第3位とする一方、肉牛農家の約70%が赤字状態と試算されると報じている。
 (注3)中国新聞週刊は2024年6月26日、農業農村部の観測として、23年12月末時点で全国の酪農家戸数が前年比24.2%減となり、また、国家肉牛・ヤク産業技術プロジェクトが昨年7月に公表した報告書として、23年の時点で生乳価格はすでに損益分岐点を下回り、酪農家による乳牛淘汰が進んだ結果、23年上半期だけでも約90万頭分の乳牛由来の牛肉が肉類市場に流通していたと報じている。


 牛肉価格の下落に関する供給側の原因として、国内外の両面から供給量が増加し続けていることにある。13年以降、牛肉輸入量は増加し続け、23年には273.7万トンと13年の9.3倍にまで増加し、国内の牛肉生産量も毎年増加している。
 また、需要側の原因として、牛肉消費の伸びが落ち着いたことであり、その理由は構造的な要因と周期的な要因とされている。構造的な要因とは、国民の収入の伸びが落ち着いたため、肉類の中で最も高額とされる牛肉の消費意欲の減退である。周期的な要因とは、肉類の消費は夏季あるいは気温の上昇の影響を受けて減少することを指している。
 さらに、肉牛農家の経営環境が厳しい理由として、農家から供給される肉牛の品質が低いことで、輸入牛肉や乳牛由来の牛肉との価格競争力が失われていることが挙げられる。近年、輸入先の多角化に併せて輸入牛肉の市場は絶えず拡大しており、特に豪州産などの牛肉の関税はゼロで、安価な牛肉の輸入が増えている。24年1月から4月までの輸入牛肉の通関時平均価格は、1キログラム当たり34.71元(775円。前年同期比9.7%安)であり、国産牛肉に比べて低い水準にある。また、乳牛由来の牛肉も同様に低い水準にある。前述の楊春研究員が肉牛生産地の一つである寧夏(ねいか)回族自治区で実施した調査によれば、乳牛由来の牛肉は、肉牛由来に比べて15%から20%程度安価とさる。これらのような状況から、肉牛農家の多くは、資金の返済ができずに飼養頭数の減少や廃業の動きが出ているとされている。
【調査情報部 令和6年7月31日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9530