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アイルランド、酪農を中心に2023年の農家所得は大幅減(EU)

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 アイルランド農業食品開発局(Teagasc)は7月23日、2023年の農家収支調査の結果として、同年の農家所得が減少したと発表した。この調査はアイルランドの農家約8万5000戸を対象に行われた。
 
 この調査結果によると、農家所得の減少については、同年の天候不順による減産に加え、肥料コストは大幅に減少しているが作付け時には高い価格水準であったなど投入資材コストが高止まりする中で、生乳価格や穀物販売価格の急落など、前年に比べ生産物販売価格が下落したことを要因としている(図1、2)。
図1
図2

各種農家の所得

 調査結果によると、2023年のアイルランドの農家所得の約53%が酪農家と耕種農家で占められており、これらの農家所得はいずれも前年から急減した(表)。酪農家の平均所得は1戸当たり4万9400ユーロ(858万7202円、1ユーロ=173.83円(注1)、前年比69%減)となり、前年から10万8200ユーロ(1880万8406円)以上減少した。また、耕種農家の平均所得は2万1400ユーロ(371万9962円、同71%減)となり、同じく前年から5万2100ユーロ(905万6543円)減少した。さらに、牛の繁殖や肥育農家、めん羊農家の所得も、投入資材コストの高止まりなどから大幅に減少した。
 これにより、同年のアイルランド全体の平均農家所得は、前年を大幅に下回る約2万ユーロ(347万6600円、同57%減)とされている(注2)
 
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年6月末TTS相場
(注2)農家所得の減少には、同年のアイルランドのインフレ率(4パーセント以上)による調整は行われていない。
表

酪農と耕種農業の概況

 特に所得の減少が大きい酪農に注目すると、2023年の乳製品国際価格の急落に生乳取引価格が連動したことで、同取引価格は100キログラム当たり44.04ユーロ(1キログラム当たり76.55円、前年比23.5%安)と前年を大幅に下回った(図3)。また、同年の生乳出荷量は、観測史上最高となる高温と、乾燥と多雨・洪水が交互に発生する天候不順による放牧環境の悪化、経営収支悪化による飼料給餌量の削減による1頭当たり乳量の減少により871万トン(同4.2%減)に減少した。
図3
 一方、穀物生産については、世界的な穀物生産の増加を受けて穀物国際価格に下落圧力がかかったことで、23年の穀物価格は30〜35%下落したとされる。
 同年の酪農家をはじめとした農家所得の減少は、前年のコロナ禍後の需要増を受けた記録的な所得増加の反動とも言えるが、輸出割合が比較的高く、生産物価格が国際相場の影響を受けやすいアイルランド農業の不安定感を改めて示している。
【渡辺 淳一 令和6年7月31日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:調査情報部国際調査グループ)
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