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再エネへの移行は、食料価格や農業生産に悪影響との研究報告(豪州)

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 ニュージーランド(NZ)とブラジルの研究者は2024年8月7日、再生可能エネルギー(以下「再エネ」という)への移行により、食料価格の上昇や農業生産量の減少といった望ましくない経済的・社会的影響があるとする新たな研究結果を発表した。
 本研究は、豪州をはじめとする経済協力開発機構(ОECD)加盟32カ国(注1)の2000年から21年までのデータを対象として、再エネへの移行が食料価格と農業生産に与える影響分析を目的としている。研究結果によると、詳細はないものの、再エネ生産の増加は食料価格と正の相関、農業生産高とは負の相関があるとされている(表)。また、先進国では、再エネの導入が遅れている国々と比較して、その相関がより顕著に現れているとされた。
 
(注1)豪州、オーストリア、ベルギー、カナダ、チリ、コロンビア、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イスラエル、イタリア、日本、韓国、リトアニア、メキシコ、オランダ、NZ、ノルウェー、ポーランド、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国
表
 本研究の共著者の一人であるNZオークランド大学のシルバ教授は、「再エネの推進は、その社会的影響を考慮して慎重に進めるべき」と警告しており、食料価格の上昇が社会的弱者に与える影響を緩和するため、継続した政府の支援が必要としている。

豪州の再エネ政策

 豪州連邦政府の現政権(労働党)は、2030年までに再エネの割合(図1)を82%に引き上げるという目標を掲げ、「Rewiring the Nation」(注2)や「Future Made in Australia」(注3)などの重要な政策イニシアティブを打ち出してきた。また、事業者からの投資を促す枠組みである「Capacity Investment Scheme」(注4)を通じて、32ギガワット(GW)分の新規発電容量を達成するための再エネ投資を目指すとも発表している。
 
(注2)地域に手頃な価格で信頼性の高い再生可能エネルギーを供給することを目的とした電力網の近代化と送電インフラの強化に200億豪ドル規模の投資を行う連邦政府の再エネ施策の一つ。
(注3)ネットゼロへの移行による経済的、産業的利益を最大化し、地域に新たな雇用を創出することを目的とした、2024/25年度予算における重要施策の一つ。グリーン産業への投資などが盛り込まれている。
(注4)新たに導入する再エネ設備について、「上限価格」と「下限価格」を設定し、卸電力市場価格が下限を下回った場合には、政府が差額を発電事業者に補填し、上限価格を上回った場合には、逆に超過分を政府が発電事業者から徴収する制度。
図1
 一方で、豪州気候変動・エネルギー・環境・水資源省(DCCEEW)は、再エネ移行による地域社会への影響を評価するための委託調査を実施し、24年2月に調査報告書が公表されている。その中では、一部の再エネ開発の計画性がない土地選定プロセスなどが農村地域社会に不安を生み出し、関連企業に対する不信感が広がっていると報告されている。実際に一部の農民では、太陽光や風力発電施設の設置をめぐる土地転用の問題に苦慮している実態が明らかにされている。
 また、同年7月に豪州農業資源経済科学局(ABARES)が公表した農業の生産性(注5)に関する報告書によると、2000年以降、豪州の農業生産性の伸び率は鈍化しており、その背景には複合的な要因があると報告されている(図2)。気候変動の影響が大きいことに加え、土地価格の上昇により、有益な経営慣行や技術を導入する可能性のある新規参入者が抑制されていることが一因と分析されている。
 
(注5)生産性は、生産物(生乳、牛肉など)の生産に必要な生産コスト(労働力、資本、土地、資材、サービスなど)がどれだけ効率的に使われているかを示す全要素生産性(Total Factor Productivity(TFP))という指標で表される。
図2
 再エネ生産割合と農業生産性に負の相関があるという今回の研究結果を踏まえると、再エネ設備の設置など農業外利用を含む土地需要の増加が土地価格を押し上げたことにより、農業生産性の低下につながっているとも考えられる。
【渡部 卓人 令和6年8月16日発】
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