畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 海外情報 > 2024年 > 牛肉の小売価格の下落が止まらない、肉牛飼育農家が悲鳴(中国)

牛肉の小売価格の下落が止まらない、肉牛飼育農家が悲鳴(中国)

印刷ページ
 中国では、牛肉価格の下落が止まらないことに対し、社会的に大きな関心が寄せられている。中国メディア「新華網財経観察」は2024年7月22日、「解消が待たれる肉牛飼育農家の困難」と題し、中国における牛肉の消費、生産および輸入の現状、専門家の見方を報じた。以下にその概要を紹介する。

■牛肉消費の現状

 北京市の大型スーパーマーケットの牛肉売り場で取材を受けた女性は、牛カタロース1キログラムがわずか60元(1282円:1元=21.37円(注))と、約1年前の同100元(2137円)程度からかなり安くなったことで、「最近は豚肉より牛肉を食べるようにしている」と語った(参考写真1)。
参考写真1
 牛肉の小売価格は2023年2月から下がり始め、24年3月には下落幅が大きくなり、6月には前年同月比13.4%安となった。
一方、牛肉消費の伸びは、年率10.4%を記録した19年以降は緩やかとなっているが、22年は年率2.7%増、23年は同4.0%増となっている。

(注)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2024年7月末日TTS相場である1元=21.37円を使用した。

■牛肉生産の現状

 10年以上肉牛を飼育してきた山東省の大規模肉牛飼育農家は、取材に対し、「去年の5、6月は肉牛1頭当たり1500〜1600元(3万2055円〜3万4192円)程度の利益があったのに、今では1頭売るごとに1千数百元(2万6千円程度)の赤字になる」と語る。河北省の肉牛飼育農家も、「出荷価格が下落し、子牛を新たに1頭購入すれば、かえって7000元(14万9590円)以上の赤字になる。これでは市況が回復しても、今後8年から10年は利益が出ない。肉牛で最も利益が高かったのは2018年から19年までで、この頃に利益を上げた農家を見て、多くの農家が肉牛飼育に参入したが、後発組はいずれも苦労している」と語る(参考写真2)。
参考写真2
 肉牛飼育農家の経営を圧迫しているのは、牛肉価格の低迷に比べて飼育コストが下がっていないこと、そして、資金の問題である。近年、牛肉消費が急伸したことを受けて、肉牛飼育農家の新規参入が増えるとともに、農家に対する融資が増えていた。例えば、通常であれば1年の償還期間とされる満期一括償還方式の金融商品でも、肉牛飼育農家向けには牛の生産周期は長いことから3年に期間を延長して販売するなどの動きが各地で見られ、農家は先を争って融資を受けていた。そのような農家が一斉に返済期日を迎えていることが各地で問題となっている。  中国農業農村部が21年4月に発表した「肉牛肉羊生産発展5年行動方案」では、25年の牛肉生産量目標は680万トンとされていた。23年にはすでにこれを73万トン上回る牛肉生産量となっていた。

■牛肉輸入の現状

 牛肉価格が低下している要因の一つは、輸入牛肉価格の下落である。ここ数年、輸入量は増加しつつも、増加の速度はおおむね安定的であった。しかしながら昨年、この輸入牛肉の価格が変化した。海関総署によれば、2022年の牛肉輸入量は約269万トンで、輸入額は約1187億円となった。これが、23年には274万トンと1.9%増えたにも関わらず、輸入額は1000億円と15.8%低下している。  中国肉類協会の陳会長は、輸入牛肉価格の下落は、中国が認めた輸入可能国の増加と関係があるとしている。近年、中国はブラジルおよびアルゼンチンからの輸入量を徐々に増やしてきた。23年には、この2カ国からの輸入量は全体の62%を占めている。

■専門家の見方

 吉林農業大学経営管理学院の曹元院長は、「輸入牛肉は、一方では市場価格の高騰を抑制し、消費者需要を満たし、国内の関連産業の効率化を促したが、その衝撃は大きい」として、今後は国内の需給バランスを調整することで過度な輸入を抑制し、国内牛肉産業の強化に必要な時間の確保を提案している。  中国農業科学院北京畜牧獣医研究所の朱研究員は、「牛肉価格の値下げ圧力に抗うためには、良質な牛肉を安定的に供給することである」としている。取材に対して、今般の牛肉価格の下落においても、一部の国産高級ブランド牛肉への影響は少なく、むしろ増える需要に対して増産を計画中としている。  同研究員はさらに、「(24年)下半期は、牛肉の供給量は引き続き高位で推移する見込みであるため、牛肉価格が上向くまでには、おそらくある程度の時間が必要」と語った。
【調査情報部 令和6年8月29日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8105