EU農業の将来に関する共通理解と方向性を示す「戦略対話」の報告書が公表(EU)
欧州委員会のフォンデアライエン委員長は9月4日、「EU農業の将来に関する戦略対話(以下「戦略対話」という)」の報告書を受領したと発表した。2024年1月に発足した戦略対話は、欧州の農業・食品業界、市民団体、農村コミュニティ、研究者など29の利害関係者が委員となり、EUの農業と食料システムの将来について、共通の理解と方向性を示すため議論を重ねてきた。
「欧州の農業および食料に関する共通の展望」と題された110ページからなる最終報告書で示された欧州農業の将来に対する提言の主な内容を紹介する。
1 持続可能性と競争力のある将来に向けた取り組み
(1)フードバリューチェーンにおける農家の地位強化
農家の地位を強化するため、(1)生産者組織の強化によるコスト削減および効率化、(2)不公平な取引慣行への対処や生産コストを考慮した契約交渉の推進などによる適正な収入の確保などを図る。
(2)持続可能性を実現するための新たなアプローチ
EU共通基準となる農場での持続可能性を評価するためのベンチマークシステムを立上げる。
(3)将来の共通農業政策(CAP)
将来のCAPでは、(1)小規模・若手・新規参入など最も支援を必要とする農家に的を絞った社会経済的支援の提供、(2)環境、社会およびアニマルウェルフェア(AW)の促進、(3)農村地域の活性化、といった目標に焦点を当て、具体的には、面積ベースでの支払いから持続可能性への取り組みに対するインセンティブ支払いに重点を置き、算定には前述したベンチマークシステムを活用する。また、エコ・スキーム(Eco-schemes)(注)と農業環境・気候変動対策の予算割合を、次期および次々期のCAPを通じて毎年大幅に増加させる。
(注)基礎的な直接支払いの上乗せとして、更なる環境・気候変動への取組の達成を受給要件として課すもの。
(4)持続可能で競争力がある農業・食料システムへの継続的な移行
移行を加速するための公的資本や民間資本の動員を求めた。その一つとして、CAPの枠外に「農業食料公正移行基金」(AJTF:Agrifood Just Transition Fund)を設立し、持続可能な農業への移行に対する投資や支援を行う。
(5)貿易政策と持続可能性政策の一貫性の強化
貿易交渉における相手国の社会文化、経済、地理、気候などの背景を考慮した上で、輸入品とEUの基準との整合性を図る。
(6)ガバナンス
「欧州農業食品委員会」(European Board on Agri-Food)を設立し、本提言のフォローアップなどを行う。
2 持続可能なフードシステムに向けた取り組み
(1)健康的で持続可能な食品の選択を容易に
EUの食品表示を全面的に見直し、子供向け食育、減税などを行う。また、植物由来たんぱく質への消費者の関心が高まっているとし、畜産物生産者への影響を考慮しながら、動物由来たんぱく質からの移行を支援する。
(2)持続可能な農業の強化
農業の生物多様性の促進、生物学的防除の活用などによる減農薬や化学肥料の使用削減、土壌栄養管理の改善、肥料の脱炭素化などを進めるとともに、CAPとは別に、農業者や土地管理者による自然環境の回復・管理を支援するための「自然回復基金」(Nature Restoration Fund)を設立する。
(3)持続可能な畜産物生産
畜産物生産による景観維持や農用地の有効利用などの社会的利益を認めつつ、温室効果ガス排出など不利益を解消するため、家畜排せつ物の堆肥への活用、家畜の育種・品種改良による飼料効率の改善、家畜飼養密度の高い地域での改善などを行う。また、現在の技術革新の状況を踏まえ、2026年までにAW規則を改正する。AW規則の改正に当たっては、経済的影響を考慮し、十分な手段、資源および移行期間を設ける。より高いAWへの移行にAJTFを活用する。関連して、EU域内のすべての生鮮および加工された食肉・乳製品を対象とした包括的な多段階のAW表示制度を設定し、これによりAWに取り組む生産者がより多くの収入を得られるようにする。
3 その他
農地の保全管理のため「2050年までに農地の純損失をゼロ」という法的拘束力のある目標の設定と、新たに「欧州農地監視機構」(European Observatory for Agricultural Land)を設立する。また、20年時点で35歳未満の農業従事者はわずか6.5%であることなどから、世代交代促進のため、土地の流動性の促進、適切な財政支援や教育に取組む。
今後の流れ
これらの提言は、11月に見込まれる2期目のフォンデアライエン政権発足後100日以内に提出される「農業と食料に関するビジョン」の策定の際の指針となる見込みである。
【調査情報部 令和6年9月13日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:調査情報部国際調査グループ)
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