中国家きん・家きん卵産業大会で政府、業界関係者が講演(中国)
中国の食肉関係業界団体である中国肉類協会は2024年9月9日、「家きん・家きん卵産業品質向上発展大会」を開催した。
同大会では、中国農業農村部国家家きん産業技術体系肉加工担当、国家食肉品質安全コントロール技術研究センター、国家食品安全リスク評価センターなどの担当者のほか、家きんの種類ごとに業界を代表する企業の責任者が講演を行った。以下に、それぞれの講演概要を紹介する
(注1)。
(注1)中国農業農村部の家きん産業の発展に対する取組については、海外情報「中国農業農村部、家きん産業の振興に対する提言に回答(中国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003896.html)をご参照ください。なお、企業からの講演は本文のほか、1)黄羽鶏肉について、温氏食品股份有限公司集団家きん事業部常務副総裁、2)カモ肉について、江蘇益客食品股份有限公司集団首席科学家、3)ガチョウ肉について、江蘇立華牧業股份公司高級顧問、4)鶏卵について、正大集団農牧食品中国区鶏卵鳥持続的発展部総経理が実施した。
(1)中国農業農村部国家家きん産業技術体系肉加工担当者
生活水準の向上に伴い、健康的な食に対する国民のニーズが高まっている。家畜、家きんともに、将来の需要量と消費者ニーズの両方に合わせた供給が必要である。
2033年の畜産物需要量の見込みは、豚肉が5479万トンと微減、家きん肉は2932万トンと微増、牛肉および羊肉は1110万トン、646万トンとそれぞれ増加としている。
消費者ニーズに合わせるためには、1)従来の「腹が膨れる食品」から、口当たりなどで「良い消費体験ができる食品」への転換、2)便利な半完成品(預製菜)の種類を豊富にすること、3)減塩など健康維持に貢献する食品の提供、4)原材料をシンプルにすること、5)中高年に合った商品の提供など細分化する市場への対応が必要である。
(2)福建聖農発展股份有限公司常務副総裁
白羽肉鶏(いわゆるブロイラー)に関する業界の状況と当社の取り組みを紹介する。
中国の白羽肉鶏産業は高度に集約化、規模化している。2022年の食鳥処理量上位3省(山東(さんとん)省、遼寧(りょうねい)省および福建(ふっけん)省)で全国の72%を占め、上位3企業(禾豊牧業股份有限公司、福建聖農発展股份有限公司および正大集団)では全国の24.2%を、上位5企業では31.9%を、上位10社では45.4%を占める。
中国第2位の規模である当社が創立以来41年間実施してきたことは、独自品種の開発に代表される研究開発および海外企業に負けないサプライチェーン全体での発展である。例えば白羽肉鶏に関する知的財産権を中国で初めて取得した自主開発品種「聖澤901」には、11年からの10年で合計10億元(207億円)(注2)を投資した。また、現在の生産は、1)14カ所の近代化採卵工場(温度、湿度、卵の位置の変更、警報などの全自動化)で年間7億7000万羽のひよこを羽化させ、2)370カ所以上の近代化養鶏場(通風施設の自動化などにより1万羽以上の管理を飼育員2名で可能に)で年間8億羽以上を飼育し、3)12カ所の近代化鶏肉加工工場では19の全自動ラインを導入し、各ライン1時間当たり1万3500羽の処理加工を実現、4)10カ所の食品加工工場で年間合計生産量が46万トン、5)11カ所の飼料加工工場では専門鉄道の敷設により閉鎖式の全自動加工を実現している。
今後も、すべての生産工程で科学技術を応用し、当グループの取引先と消費者に対し信頼に値する商品を提供していく。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2024年8月末日TTS相場である1元=20.70円を使用した。
(3)国家食肉品質安全コントロール技術研究センター副主任(注3)
中国の家きん産業は過去50年成長を続け、家きん肉供給量の増加速度は食肉の中で最速であった。しかしながら家きん産業は現在、大きな転換期を迎えている。業界が直面している主な課題は、1)生産過剰リスクの高まり、2)中国の高齢化の進展による消費量の大幅な減少見込み、3)市場ニーズの変化である。
他方で、現在、中国の食料消費にはベネットの法則(Bennett's law(注4))が明確に表れている。すなわち、経済発展および家庭収入の増加によって食品の消費構造が変わり穀物の消費量が減り、肉類、水産品、野菜など他の食料の消費量が増えている。食肉の消費にはまだ可能性があるということであり、関係業界は課題解決に取り組みながら発展の可能性を模索し続けなければならない。
産業としての主な発展方向は、1)ビッグデータとデジタル技術をこれまで以上に高度かつ融合的に活用し、供給チェーン、価値創造チェーン、サービス提供チェーンなどあらゆる面で一層の効率化を図ること、2)企業の社会的責任、環境保護および企業ブランドの構築に関する取り組みを生産モデルの中に組み込み、経営モデルの転換を図ること、3)商品だけの輸出から産業全体の輸出を図り、国際市場に展開できるだけの企業戦略・産業構造の転換と、それによるビジネスチャンスの確実な確保を図ることである。
変化する市場ニーズに対しては、需要増がみられる休閑食品(注5)および半完成品(預製菜)に関する適切なニーズ分析と商品開発などの対応が必要である。
(注3)南京農業大学食品化学技術学院元学院長。
(注4)所得の向上に伴い、カロリーの高い穀物などの主食消費から栄養価の高い肉類、野菜、果物などの消費にシフトするという農業経済の法則。
(注5)間食用の食品全般を指す言葉。夜食など軽めの食事向けの商品も含む。食肉に限らず消費量が増えており、中国の食品メーカーは競って対応している。
(4)国家食品安全リスク評価センター主任
中国食品安全法の制定のきっかけは、2008年の牛乳へのメラミン混入事案
(注6)である。当時この事件が大きな関心を集めた背景は、北京オリンピック開会の年で食品検査が強化され、社会の関心も高かった結果、それまでの食品事故よりも大きく報道されたからということがある。このことからも、中国の食品安全は「監測」(行政機関が定点的・定期的にデータを収集し、異常な値を見つけたときは速やかに原因究明を行うこと)を重視し、これを食品安全に関する行政措置の起点としている。
中国の食品安全の柱は、1)食物由来の病気(サルモネラ菌などによって引き起こされる健康被害)、2)食品汚染(人為的に、色味を良く見せるために不適切な化学物質を混入することなど)
(注7)、3)食品中の有害物質(残留農薬など)への対策である。業界関係者には食品安全の重要性に常に意識を持って欲しい。
(注6)中国における牛乳へのメラミン混入事案については、内閣府食品安全委員会HP「中国における牛乳へのメラミン混入事案に関する情報について」(https://www.fsc.go.jp/emerg/melamine.html)をご参照ください。
(注7)たとえば、監測の結果、基準値超えが見つかった食肉の重金属汚染件数を見ると、2014年の1.78%に対して23年は1.05%に低下したが、牛のレバーに限れば、14年の8.43%に対して23年は9.14%と上昇している。
【調査情報部 令和6年9月20日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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