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スペイン輸送業界、EUの動物輸送規則改正案の影響を評価(EU)

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 スペイン貨物輸送連盟(CETM)は2024年9月13日、EUの動物輸送に関するアニマルウェルフェア規則の改正案(以下「改正案」という)が施行された場合のスペイン国内の家畜輸送への影響を評価した。欧州委員会の改正案は、輸送中の家畜1頭当たりに必要とされる面積(以下「密度」という)や外気温による輸送の条件が厳格化されており、今後、欧州議会とEU理事会の審議にかけられることになる(注)
 
(注)畜産の情報2024年6月号「動物輸送に関するEUのアニマルウェルフェア規則の改正案について」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_003271.html)をご参照ください。

密度の厳格化による輸送コストの上昇

 今回の試算は、スペイン運輸・持続可能なモビリティ省(MITMA)が提供する道路貨物輸送車両の運用コスト計算システム「ACOTRAM」を用いて実施している。
 改正案では、家畜運搬時の密度が厳格化されるため、運搬車1台当たりの運搬可能な家畜頭数は減少することになる(表1)。このため、今回の試算では、密度の厳格化への対応により、スペイン国内の家畜運搬車を68%増加させる必要があり、これにより運送コストは牛で最大177.1%、豚で28.0%それぞれ上昇する可能性があるとした(表2)。また、EUが取り組む温室効果ガス(GHG)排出の削減に逆行し、運転手不足の問題を顕在化させると指摘している。
表1
表2

夜間の輸送によるコストの上昇

 改正案では、外気温が高温(30度以上)になる場合には、家畜の輸送を夜間に限定する必要があるとされている。スペインなどの南欧の温暖な地域では、6〜9月の約4カ月が夜間輸送の対象期間となる可能性があり、運転手の夜間労働が増加することになる。運転手に対するEUの規則(EC561/2006)により、夜間の運転時間に制限があることや夜間労働による単価の上昇、人材確保の観点から、労働時間当たりの人件費コストは35%上昇すると見積もっている。

車両の改修によるコストの増加

 空調システムを搭載した車両を導入する場合、導入や維持のためのコストが必要となる。また、家畜に合わせて、天井の高さや荷室の層数の変更などの対応が必要としている。

EUの畜産業界への影響

 スペインは、オランダから多くの子豚を輸入しているが、改正案が導入された場合、夏場の数カ月間、同国からの子豚輸入の混乱が予測されると指摘している。
 また、家畜の移動が制限されることによる輸送コストの上昇や集荷経路の削減などにより、農場や食肉処理場の閉鎖が増加し、畜産関連企業の経営にも影響が及ぶことから、農村部の人口減少につながる可能性があるとしている。
 さらには、食肉生産の減少により、第三国からの輸入の増加する可能性があり結果として、雇用の喪失や食肉価格の上昇による経済的・社会的な影響を受けるとしている。

経済社会評議会はEUの畜産業界への影響を懸念

 欧州委員会の改正案については、EUの経済・社会政策の諮問機関である経済社会評議会(EESC)が2024年8月9日、家畜生産者に大きな影響を及ぼし、多くの農場や食肉処理場が閉鎖される可能性があるとする意見書を発表した。
 同発表では、科学的根拠に基づいた規制が不可欠となるだけではなく、畜産業界や運送業界の実現可能性などを考慮に入れる必要があるとし、外気温が高温時の輸送制限を荷室の温度管理の徹底により日中の輸送も認めるなど、同案の修正案を提案した(表3)。
 その上で、改正案への関連業界の対応を支援するために、同委員会に対して共通農業政策(CAP)により割り当てられた予算とは別の特別予算の措置を求めたほか、社会的、経済的、環境的に悪影響を及ぼさない長期的な解決策を提案するよう求めた。
表3
【藤岡 洋太 令和6年9月27日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397