欧州会計検査院、共通農業政策の加盟国別計画は気候変動対策の目標水準に及んでいないと指摘(EU)
共通農業政策(CAP)では、各加盟国がCAPを実行していく手段や対策を明記した戦略計画(Strategic Plan)を定め、当該計画を欧州員会が承認し、毎年実施状況について評価する仕組みとなっている。欧州会計検査院(ECA:European Court of Auditors)は9月30日、2023年から開始された新たなCAPの戦略計画について、「従前よりも環境に配慮したものになっているものの、EUが欧州グリーンディール注1で求める環境・気候対策の野心的な目標を達成させる政策としては十分でない」とする報告書を公表した。ECAが指摘した主な点は以下の通り。
注1:(1)2050年の温室効果ガス(GHG)実質排出ゼロ(気候中立)、(2)経済成長と資源利用の切り離し(デカップリング)、(3)資源効率が高く競争力のある経済の実現−を目標とした構想
環境・気候変動への取り組みの強化(グリーン・アーキテクチャー)の運用
CAPでは、直接支払の受給要件として気候・環境要件が設定されているが、ECAはこの環境要件について、生産者からの抗議活動などにより輪作や休耕地の義務化が緩和されていることを挙げた
注2。また、更なる環境・気候変動への取り組みを行う農業者に対する上乗せ支援(「エコ・スキーム(eco-scheme)」)が導入されたが、検査の結果、従来の取り組みの継続を本制度の対象としている例が多く見られたとした。ECAは、CAPにおける環境面の貢献は、生産者の任意の取り組みに依存する割合が高いと指摘している。
注2:詳細は、海外情報「EU理事会、共通農業政策における環境要件の緩和を承認(EU)」https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003814.htmlを参照ください。
欧州委員会が戦略計画を承認する際の環境への貢献度を測定可能にする基準の不足
各加盟国の戦略計画を欧州委員会が承認する際、EUレベルで設定された欧州グリーンディールなどの政策上の目標の実現に向け、各国の実情も踏まえて助言することになっている。ECAは4つの加盟国(フランス、スペイン、アイルランド、ポーランド)の承認プロセスについて検査した結果、欧州委員会が戦略計画を評価するための定量的な基準が不足していると指摘した。欧州委員会からの法的に定められた範囲を超えた助言に対して4加盟国が部分的にのみ対応(助言の8%)または計画を変更しなかった事例(同35%)が見られ、結果として欧州委員会は、計画における環境および気候に関する野心的なレベルがどの程度向上したかを明確にすることができなかったとした。
CAPへの欧州グリーンディール目標の統合
欧州グリーンディールでは2030年までに、(1)有機農業面積を全農地面積の25%に、(2)化学農薬使用とリスクの50%削減、(3)温室効果ガスの55%削減、(4)生物多様性の高い景観機能面積を農業地域の10%に、などの数値目標が掲げられている。戦略計画ではこれら目標に加盟国としてどう貢献していくか記載するよう求められている。しかし、ECAの検査によると、有機農業面積についてはすべての加盟国で数値目標が定められていた一方、他の数値目標では農薬使用が6カ国、温室効果ガスが8カ国、生物多様性が6カ国で定められている状況にとどまっており、モニタリングが困難になっていると指摘した。
改善に向けた提言
ECAは上記の改善に向け、
- 戦略計画上での生産者の取り組みを活性化するため、エコ・スキームの優良事例や長期的な気候・環境対策に向けた主要な実践方法といった情報の共有および交換の促進
- 2025年以降のEU理事会や欧州議会への報告時に、欧州委員会はグリーンディールの目標に対するCAP戦略計画の評価において、定量化した推定値を用いること
- 28年からの次期CAPではモニタリングの枠組みが強化されるように、EUの気候・環境目標をCAPに数値目標として組み込み、CAP戦略計画を評価する際にはこれら数値目標がどのよう用いられるか明確にし、進捗状況をモニタリングするための結果指標を定義すること
を提言している。
【調査情報部 令和6年10月15日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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