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豪州肉牛団体、EU森林破壊防止規則を念頭に独自の環境政策を主張(豪州)

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 豪州の肉用牛生産者の業界団体であるキャトル・オーストラリア(CA:Cattle Australia)は、9月29日から10月3日まで南米のウルグアイで開催された「持続可能な牛肉のための世界円卓会議」(GRSB:Global Roundtable for Sustainable Beef)に豪州代表団の一員として出席し、EUの森林破壊防止のための調査の義務化に関する規則(注1)を念頭に、豪州の独自の環境保護管理の現状および森林破壊の定義を地域別に定めることの必要性を訴えた。
 CAは当該会議に先立ち、豪州における土地管理の在り方が森林破壊防止や生物多様性の維持に貢献していることを示した土地管理公約(LМC:Land Management Commitment)戦略方針を発表しており、今回の主張はその内容に基づいて行われた。

(注1)牛、カカオ、コーヒー、パーム油、ゴム、大豆、木材の7品目およびこれらの派生製品について、EU域内に市場投入、供給、またはEUから輸出するすべての事業者および貿易事業者に対して、当該産品が森林破壊を引き起こしていないことの調査と報告を義務付けるものである。詳細は海外情報「森林破壊防止のための調査の義務化に関する規則が発効(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003571.html)をご参照ください。
 

(1)LMC戦略方針の概要

 豪州における「農地」とは、家畜の放牧を含む食料と繊維の生産に使用される土地を指し、豪州土地利用管理(ALUM:Australian Land Use Management)によって定義されている(図1)。放牧による肉用牛生産の大部分は分類2となる約3億2500ヘクタールの自然植生(注2)を活用して行われており、その中には約5800万ヘクタールの自然植生が保たれた原生林と原生牧草地が含まれている。
 
(注2)人為的な影響を受けず、自然のままに生育する植生。
図
 一方、「森林」の定義は、樹幹の高さが2メートルを超える樹木による樹冠被覆率(注3)が20%を超える地域を指し、家畜の放牧を含む農業用地は含まないとされている。そして森林破壊とは、植生管理法(注4)に違反し、森林地域で樹木を伐採することと定義している。
  以上の整理からCAは、豪州の放牧による肉用牛生産は森林破壊に当たらず、広大な農地の管理による景観の維持や炭素の吸収源としての貢献など、環境に配慮した産業であると主張している。
 加えて、環境保護と生物多様性の管理の実践において、豪州が世界のリーダーとなるため、連邦政府に対して以下の提言を行っている。
 
  1. 衛星情報を活用した正確な地図データを毎年更新・管理し、農地利用、環境、生物多様性の状態を評価すること
  2. 国内事業者の国内および国際市場へのアクセスの維持を支援し、国際基準との同等性を確保すること。また、貿易上の技術的障壁がWTОのルールに準拠しているか常に確認すること
  3. 生産者が牛肉生産と生物多様性の共存がもたらす利益を実感できるよう、業界と政府が連携して必要な手法を開発・普及させること
  4. 持続可能な開発計画を通じて食料安全保障、地域社会・経済および地域の生態系が損なわれることを防ぎ、戦略的な農業成長を支援すること

(注3)一定面積の地面に対して樹木の枝や葉が茂っている部分(樹冠)が占める割合。
(注4)豪州では連邦政府、州政府および準州政府レベルで施行されている136の植生管理に関する法律が存在し、ここではそれらを総称して記載している。

(2)EU森林破壊防止規則の適用延期

 欧州委員会は10月2日、今年の12月30日からとなっていたEU森林破壊防止規則の適用を1年延期とする提案(注5)を行った。豪州では9月に、EUに対して規則の適用を延期するよう求める上院の超党派動議が可決するなど、業界の主張を受けて政局も動いており、EUの発表を各メディアが報じている。また、ニュージーランド政府もWTО本部の会合で適用延長の必要性を訴えるなど、業界と協調しながら対応してきた経緯があり、今回の発表を受けて両国の業界団体は歓迎する姿勢を示している。
 
(注5)詳細は海外情報「欧州委員会、森林破壊防止のための調査の義務化に関する規則の適用延期を提案(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003933.html)をご参照ください。
【調査情報部 令和6年10月17日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9530