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仏ラクタリス社、フランス国内での生乳集乳量削減を公表(EU)

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 フランスの乳業最大手のラクタリス社は9月25日、今年初めに生産者団体と合意した生乳に付加価値をつける取り組みを推進し、生産者乳価を引き上げるため、同国内での生乳集乳量の削減を公表した。粉乳に代表される国際市場向けの乳製品割合を減らし、国内市場向け乳製品の生産に焦点を絞るとしている。
 同社は「これまで、フランス国内市場向けに利用される以上の余剰乳を粉乳として国際市場に販売してきたが、その価格は非常に低く国際需要の変動と不確実性の影響を大きく受ける製品であった。(余剰乳の発生を抑えるよう)集乳量の調整により、生乳価格の引き上げにつながる」と述べている。また、同社広報担当は、ニュージーランドとの粉乳市場での厳しい価格競争も指摘しており、同社の売り上げの中でチーズやヨーグルトなど消費者向け製品の比率を増加させることにより、生乳価格の引き上げにつながるとしている。
 
 ラクタリス社は、世界51カ国に拠点と270カ所の乳製品工場を所有し、2023年の年間収益は乳製品企業としては史上初めて300億米ドル(4兆3119億円:1米ドル=143.73円(注1))を超えた。オランダの農協系金融機関ラボバンクが24年に発表した世界主要乳業の売上高ランキング(注2)では、売上高で世界第1位に位置付けられている。また、同社が米国ゼネラル・ミルズの米国ヨーグルト事業を買収するとの発表も9月に行われており、消費者向け製品への注力がうかがえる。
 
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年9月末TTS相場。
(注2)海外情報「2023年の世界の乳業ランキングトップ20を公表(EU)」をご参照ください。

削減計画

 今回の公表でラクタリス社は、2024年から30年にかけて、フランス国内での集乳量51億リットルの約9%に相当する4億5000万リットルの余剰生乳を段階的に削減するとしている。
 第1段階として、(1)26年までにペイ・ド・ラ・ロワール地方(図)の東部と南部を対象に1億6000万リットルを削減、(2)酪農協との契約更新の停止により30年までに1億6000万リットルを削減、により合計3億2000万リットルを削減する。
 第2段階は、市場動向と生産現場を考慮しつつ、1億3000万リットルを削減するとしている。
図

関係団体およびフランス政府の反応

 フランスの酪農生産者団体である全国酪農生産者連盟(FNPL:Fédération  Nationale des Producteurs de Lait)のバルべ会長は9月26日、フランス農業・食料主権省のジュヌヴァール新大臣に対し、ラクタリス社の減産計画の影響を受ける生産者に対し、FNPLが新たな出荷先を見つけて生産者を支援することを表明するとともに、公的機関からの支援を求めた。これに対し同大臣は、生乳生産の維持に向けた生産者の全面的な支援を約束した。
 また、FNPLは9月27日、今回のラクタリス社による減産発表について、(1)同社の一方的な決定であること、(2)エガリム法の対象となるフランス産の生乳集乳量を減らし、安価な輸入クリームなど輸入品の製品原料利用を目的とした動きであるとして、強く非難した。その上で、これまでは同国の酪農家の努力が同社の事業拡大に貢献してきたが、今後は、生産者や生産者団体はこれ以上ラクタリス社との契約に縛られることはなく、他の出荷先を選択する自由があると強調した。
 現地関係者への聞き取りによれば、(1)ラクタリス社の集乳量の削減に対して他乳業による集乳量の増加で乳価や出荷量が維持される可能性もある、(2)酪農の魅力を発信する中での否定的な発表は残念、(3)同社の決定については、中国向け粉乳の輸出量の減少が背景にあるのではないか、(4)フランス酪農全体としては、現在の国内外からのチーズやバターの需要増に対応するためには、生乳生産量の維持が必要−といった多様な意見が聞かれた。
【渡辺 淳一 令和6年10月24日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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