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中国養豚業界で進む変革、大企業の挑戦と零細企業の淘汰が進む(中国)

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 中国の養豚業界では、今、業界の変革が進んでいる。中国養豚業を支えているのは、大企業、合作社(注1)、規模を拡大した養豚農家、零細養豚農家など(注2)であるが、近年の豚肉価格の変動とこれに伴う厳しい経営環境に対し、特に、大企業の戦略調整と零細養豚農家の淘汰(とうた)が進んでいる。このことについて中国農業農村部は8月27日、侯水生氏(中国人民政治協商会議全国委員会(注3)の委員)からの提案に回答する形で「適正規模での養豚への支援強化に関する提案について」を公表した。その主な内容と業界の受け止め、中国養豚業界最大手の牧原グループの挑戦を紹介する。

 (注1)地域の指導者、例えば農村の書記などを中心に地元の同業農家が共同で法人を設立するもので、法人に関する制度としては日本の農業協同組合に近い。
 (注2)中国では、飼養頭数を500頭以上とする規模拡大の目標が定められている。規模拡大の目標を含む中国の全国畜産獣医産業発展計画については『畜産の情報』「中国における畜産業の生産基盤強化に向けた取り組み」(令和6年3月号)を、中国の養豚業の状況については同「中国における養豚経営の現状および発展の方向性」(令和5年12月号)をご参照ください。なお、「養豚農家など」には、法人化など個人経営以外の形態が含まれる。
 (注3)全国人民代表大会と合わせて「両会」と呼ばれる中国の最高意思決定機関の一つであり、中国共産党が標榜する多党協力と政治協商を体現する重要な会議。同氏は、同会議の全国委員であり中国工程院院士でもある中国農業科学院北京畜牧獣医研究所の首席科学者。同会議委員から関係行政部門への意見具申については、海外情報「中国農業農村部、家きん産業振興に対する委員からの提言に回答(中国)」(令和6年7月30日発)をご参照ください。

1 「提案について」で示された中国農業農村部の主な考え方

(1)わが国の畜産物需要に対する供給量を確保する観点から、中国農業農村部は、適切な規模での養豚生産を引き続き促していく。2022年において、(規模拡大の目標となる)年間の出荷頭数が500頭から5000頭までの養豚農家などは全国の総出荷頭数の31.2%を占め、豚の安定供給の主力となっている。

(2)今後も、適切な飼養規模での養豚を行う供給連合体の設立を支援する。近年、中国農業農村部は、企業が合作社と家族農家をけん引し、大小さまざまな農家と連携して産業化連合体を形成し、最低限の買い取り保障や注文生産、利益の分配、持ち株の譲渡、これら農家による企業での優先就業などが進むことで、各主体が適切に利益を共有できる体制の構築を進めてきた。既に全国で9000に上る農業の産業化連合体が形成されており、養豚業でもこれを引き続き推進する。あわせて、中国農業銀行と協力し、大規模企業が核となって、飼養、と畜、加工、保管、配送、販売といった産業チェーン全体が一体的に運営・経営されることで、一体化に参画する中小規模の養豚農家などの技術、管理レベルが引き上げられる取り組みも支援していく。これによって、企業にデジタル技術の導入が一層進展することも支援する。

(3)引き続き、養豚農家などへの技術指導を行うとともに、新たな技術の導入や、専門家による指導サービスを提供する。すべての省で1000名以上の農業経営補助員の育成を進め、家族経営や農業合作社への指導提供を推進する。既に2024年4月末までに、累計で、延べ3万6000人に及ぶ指導を実施したほか、毎年1万4000人に及ぶ地域の防疫と繁殖の専門家を募集し、農家への個別技術指導サービスを提供した。

2 「提案について」に対する業界の反応

 この中国農村農業部の通知に対して業界関係者からは、大企業だけではなく、規模を拡大した養豚農家などもあることが、豚の生産や価格の変動リスクを分散する上で有効であり、その存在は業界全体の良好な発展に必要とし、今回の通知はこれら中小規模の養豚農家などに経営継続の自信を与えると評価した。
 中国では大企業による市場占有が進み、豚肉出荷量に占める中国養豚業界トップ10企業の割合は、2021年の15%から23年の22.5%に上昇している。この状況を踏まえ業界メディアは、大規模化、標準化、デジタル化などは養豚業の発展にとって必然的な流れであり、大企業がこれらを担う一方、中小規模の養豚農家などは特色ある豚肉の供給や循環農業、観光農業といった新たな農業モデルを模索する必要があるとしている。また、廃業した零細養豚農家は、この5年間で41%減少(1300万戸)したが、今後もこの傾向が続くとしている。

3 養豚業界最大手・牧原グループの挑戦

 中国養豚業界で耳目を集めているのは、牧原グループによるベトナムへの進出と、人材獲得戦略である。
 中国国内の業界環境が厳しいことを受け、同社は9月18日、BAFベトナム農業股份有限公司と戦略協力協定書を結び、養豚施設の建設やデジタル化の進展、環境保全といった多方面で協力を行っていくことを公表した。
 また、今後企業が発展するためには優秀な人材が不可欠であるが、業界には優主な人材が不足しているとして、同社は9月7日、大学生および大学院生を対象とする企業説明会(第7回河南省人と知恵を呼び込んで創造を進める大会)で、高額の給与により優秀な人材を雇用していくことを公表した。同社は、「全面的な報酬=給与+ボーナス+持ち株+福利厚生+学習・チャレンジの機会+昇給・昇任+信用・重用+栄誉」であるとし、人材を招くポストごとに、最低でひと月当たり1万元(20万7600円:1元=20.76円(注4))、最高で年間100万元(2076万円)の報酬を支払う用意があるとしている。

 (注4)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2024年9月末日TTS相場である1元=20.76円を使用した。
【調査情報部 令和6年10月24日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9530