米農務省、乳牛でのHPAI感染等に対して新たな対策を発表(米国)
米国農務省(USDA)は11月6日、乳牛における高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の感染拡大に対応するため、全土を対象とした新たな支援策を発表した。2024年3月以降、乳牛におけるHPAIの感染事例が続いており、公衆衛生上のリスクは低いとされているものの、米国政府は警戒を強めている。
1 米国における現在のHPAI感染状況
USDAの発表によれば、今年3月に初めて乳牛でHPAIの感染が確認されて以降、11月18日までに549件の感染事例が報告されている。これまでテキサス州、コロラド州、ミシガン州、アイダホ州、カルフォルニア州を中心に15の州で確認されており、特に直近30日間ではカルフォルニア州を中心とした感染事例が報告されている(注1)。
また、家きんについては年間を通じてHPAIが発生している状況にあるが、直近1カ月では、庭先養鶏を含めオレゴン州、ワシントン州、カルフォルニア州での感染が確認されている。
米国疾病予防管理センター(CDC)の発表によると、24年以降のヒトへの感染事例は合計53件であり、いずれも軽症としているが、直近のワシントン州での11事例はHPAIに感染した家きんからの感染が原因と推定されている。
また、USDAは10月30日、オレゴン州で非商用として飼養されていた豚(注2)で、米国初の事例となるN5N1亜型HPAIの感染が確認されたと発表した。ただし、遺伝子解析によれば乳牛で感染が確認されている遺伝子型(注3)とは異なり、独立した渡り鳥に由来することが判明している。アイオワ州立大学の専門家によれば、今回の発生施設は商用の大規模な養豚場ではないため、特に大きな公衆衛生上の懸念とはならないとされている。
(注1)カルフォルニア州での報告数が集中している理由としては、8月末以降のカルフォルニア州全土における積極的なモニタリングの実施による影響が考えられる。
(注2)豚は、鳥とヒトのどちらのインフルエンザウイルスに対しても宿主となる可能性があり、重複感染により新たなインフルエンザウイルスに変異すると懸念されている。
(注3)遺伝子解析による亜型よりも詳細な分類。同じ亜型内でも遺伝子型によりグループ分けを行ったり、由来する動物種やウイルス株を推測したりすることができる。
2 発表された新たな対策
カルフォルニア州の乳牛にHPAI感染が集中して確認されたことと、また、ワシントン州の家きんから人への感染が複数確認されたことから、今回、USDAによる新たな対策が発表された。
具体的な内容としては、(1)発生州への専門チームの派遣、(2)疫学調査の実施および検証、(3)資材の供与、(4)労働者に対する季節性インフルエンザのワクチン接種の推奨などである。また、生乳サンプルに対するアクティブサーベイランスを全国的に実施することとし、牛用のワクチンの安全性試験の実施や、牛乳の安全な供給のための研究への参加の呼びかけなどが改めて行われた。
3 米国におけるこれまでの乳牛でのHPAI感染への対応
USDAによると、米国では24年3月に乳牛で初となるHPAI感染が確認されて以降、移動制限、検査費用の支払いに加え、市場に流通する牛乳・乳製品や牛肉(ひき肉)などの検査による安全性の確認などが行われてきた。さらに、24年7月からはHPAIに感染した乳牛の損失費用などの補てんに加えて、各州で独自に実施するサーベイランスに対する支援も実施されている。
このような中でUSDAは9月24日、HPAIに感染した酪農場のうち、64%を対象とした疫学調査の結果を公表した。主なポイントは以下の通りである。
(1)H5N1亜型HPAIの州を超える伝播は、家畜の移動と関連しており(野鳥が単独で農場に持ち込む状況と異なっている)、いくつかの州では局所的に農場間で感染が拡大している。
(2)酪農場での感染拡大は直接・間接的な経路を含めた多くの要因によるもものと考えられている(図)。
(3)感染拡大のリスクを低減させるためには、バイオセキュリティが鍵となる。
【調査情報部 令和6年11月21日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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