ホーム > 畜産 > 海外情報 > 2024年 > 再生可能エネルギーへの転換は農家に数十億ドルの利益と試算(豪州)
豪州のエネルギー業界団体であるクリーンエネルギー協議会(CEC:Clean Energy Council)(注1)と農業団体の気候変動対策のための農民連盟(FCA:Farmers for Climate Action)(注2)は2024年11月18日、再生可能エネルギー(以下「再エネ」という)への転換が土地所有者や地域社会にもたらす経済的利益を試算した共同報告書を発表した。報告書によると、風力および太陽光発電施設を設置する土地所有者は、50年までに土地使用料で最大97億豪ドル(9976億円:1豪ドル=102.85円(注3))の利益を得ると試算されている。また、大規模風力発電プロジェクトが実施されている地域の近隣住民に対して、電気料金の割引を提供するゾーン別電気料金を導入している事例などが紹介されている。
豪州連邦政府は、30年までに再エネの割合を82%に引き上げるという目標を掲げているが、不十分な協議プロセスや耕作地の損失、外国資本開発業者への不信感などを理由に、全国各地の地域社会から強い抵抗を受けていると報じられている。目標達成のためには、大規模な再エネプロジェクトへの投資を急速に拡大させる必要がある中で、本報告書で提示された情報は、再エネ導入に懐疑的な地域社会を説得する潜在的な手段として期待されているとみられる。
(注1)800社以上の企業・団体などで構成されるクリーンエネルギー推進に関する協議会。傘下会員への情報提供や再エネに関する政策提言などを積極的に行っている。
(注2)気候変動対策に特化した農家主導の団体。農業および気候変動の分野全体にわたってリスクを管理し、気候変動への適応を目指して活動している。
(注3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年10月末TTS相場。
報告書における土地使用料の試算は、豪州エネルギー市場管理機関(AEMO:Australian Energy Market Operator)(注4)が2024年6月に公表した、国内の電力消費量の80%を占める全国電力市場(NEM:National Electricity Market)(注5)の50年ネットゼロ移行に向けた電力ロードマップ「2024年統合計画システム(ISP:Integrated System Plan)」に基づいている。ISPでは、50年までのネットゼロ実現という政府目標に向けて、3つの予測シナリオが示されており、その中で最も実現可能性が高いとしている「ステップ・チェンジ」シナリオにおける風力および太陽光の予測発電容量に、CECの傘下会員の実績から算出した土地使用料の平均支払単価を乗じることで、50年までに土地所有者が得られる利益を推計している(図)。
(注4)豪州の電力およびガス系統と市場を管理する団体。所有権は政府と業界が共有しており、連邦政府および州政府、ならびに豪州全土のエネルギー関連の会員企業によって構成されている。
(注5)豪州では、電力取引市場が地域ごとに分かれており、東南部の6州と準州(首都特別地域、ビクトリア州、ニューサウスウェールズ州、クイーンズランド州、南オーストラリア州、タスマニア州)で形成される市場をNEMと呼ぶ。