欧州委員会の指摘を受け、ブラジルがEU向け雌牛牛肉の輸出を停止(EU)
欧州委員会の保健・食品安全総局(DG SANTE)は2024年10月16日、ブラジルからのEU向け牛肉について、EUでの使用および処置された牛由来の製品の輸入が禁止されているホルモン剤(エストラジオール17β(注))の不使用を保証する書類に実効性が担保されていないとする監査報告書を公表した。
同局が24年5月から6月にかけて実施した監査の結果を受けて、ブラジル当局は同年10月6日からEU向けの雌牛の牛肉の輸出を停止している。
(注)エストラジオール17βは、主に牛の排卵同期化・定時人工授精のために使用される。
ブラジルにおけるEU向け牛肉生産の流れ
ブラジルにおいて、2023年12月時点でEU向け牛肉の由来する牛を生産する農場は、同国の個体識別システム(SISBOV)に登録された農場(ERAS農場)1220戸に特定され、これらの農場からEU向けの認定と畜場に出荷が可能となる。
EUへの牛肉の輸出に当たっては、生産農場がホルモン剤の不使用に関する誓約書をブラジル農務省(MAPA)に提出し、同省が衛生証明書を発行することとされている(図)。この誓約書は、肥育素牛などをERAS農場に出荷する非ERAS農場に対しても提出が義務付けられている。
なお、ブラジルではエストラジオール17βの使用が認められており、ERAS農場でも、EU向け以外での使用は可能となっている。
DG SANTEによる指摘
今回の監査でDG SANTEが問題点として指摘したのは、(1)農場での牛の治療記録の保存が義務付けられていない、(2)動物用医薬品の使用に関する管理が行われていない、(3)動物用医薬品に記載すべき情報が定められておらず、農場での処方箋の保管義務がない、(4)ERAS農場に出荷する非ERAS農場は他の非ERAS農場から牛を仕入れることができ、仕入れ元の農場は誓約書に署名する必要ない、という4点である。これらを踏まえると、MAPAは衛生証明書の発行に当たり、エストラジオール17βを使用していないという誓約書の信頼性を確認できないとしている。
監査の結果から、同局はブラジル当局に対して、エストラジオール17βを処置された牛由来の製品がEUに輸出されないよう勧告を出した。
ブラジル当局の回答
DG SANTEの勧告を受けてブラジル当局は、エストラジオール17βを使用していないことを保証する運用を1年以内に開始するとし、同運用の開始まで、EUへの牛肉の輸出は雄牛のみとすると回答した。
業界の反応
アイルランド農業連盟(IFA)のゴーマン会長は、EUに対して、ブラジルがEUと同じ基準を満たすことを証明できるまで、同国からの牛肉の輸入を直ちに停止するよう求めた。
一方、ブラジルの報道によると、同国からEUへの牛肉の輸出量は全体の3%程度であり(表)、直接的な影響は限定的とする一方、EUの高級牛肉の低関税枠(ヒルトン枠)を使用する事業者にとっては、収益への影響が出る可能性があるとされている。
メルコスールとの貿易協定への懸念を示す農業界
年内にもEUとメルコスールとの貿易協定に関する交渉が完了するとの観測もあり、EUの農業団体などは、メルコスール加盟国がEUの厳格なアニマルウェルフェアや環境保護、消費者の健康に関する基準を遵守することを保証するよう求めている。
欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca)は今回の監査での指摘を踏まえて、メルコスールとの貿易協定の発効により、EUの基準を満たさない製品がEU市場に流入することは、EUの生産者と消費者双方にとって不利益となるとして、EU当局に対して協定の締結を考え直すよう求めた。
【藤岡 洋太 令和6年11月28日発】
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