中国で家畜・家きんの無害化処理産業が拡大中(中国)
2023年末の中国の家畜・家きんの飼養頭羽数は約76億5000万頭・羽(うち、家きんの飼養羽数は前年比0.2%増の約67億8000万羽)に上り、飼養頭羽数の増加に伴いそれらの死骸の無害化処理
(注1)関連産業の規模も拡大している。
中国農業農村部が24年11月1日に発出した「病死した家畜・家きんの無害化処理に関する業務のさらなる強化に関する通知」
(注2)に関連し、中国における家畜・家きんの無害化処理の状況を紹介する。
(注1)無害化処理とは、2013年に中国農業部(現農業農村部)が制定した「病死した動物の無害化処理技術規範」によると「病死した動物の死体その他関連の動物産品を物理的、化学的な方法などによって処理し、それらが有する病原体を消滅させ、動物の死体が有するリスクを滅殺する工程」とされ、焼却処理、化製処理、埋め立て処理および発酵処理の方法があるとされた。現在ではこれらに加えて生物分解処理も採られることがある。関連法令としては、同規範のほか、「動物防疫法」、「重大な動物疾病の流行に速やかに対応するための条例」、「家畜・家きん病死肉・死体及びその産品の無害化処理に関する規程」などがある。
(注2)同通知の内容については「中国農業農村部、病死した家畜・家きんの無害化処理に関する通知を発出(中国)」(令和6年11月22日発)をご参照ください。
1 主な動物疾病の発生状況
中国における主な動物疾病(注3)の発生状況には、その政府部門への報告数から、一定の季節性と変動性があることがうかがえる(図)。春と秋は気温差が大きいため病原体が活発になり、罹患率が相対的に高い。また、全体的に病死率は低い水準で推移しているものの、周辺地域の環境汚染や自然災害などによって鳥類の疾病感染力が強まり、家畜・家きんの感染率、病死率が高くなる時がある。
(注3)中国農業農村部は、主な動物疾病(牛、豚、鶏のほか蜂、水産生物などの疾病を含む。)を一類(口蹄疫、アフリカ豚熱、高病原性鳥インフルエンザなど11種)、二類(豚熱、狂犬病など37種)および三類(126種)に分けて指定し、その発生について報告義務を課すほか類に応じて適切な措置を採るよう求めている。
2 家畜・家きんの無害化処理産業の概況
家畜・家きんの死骸の無害化処理は、主に生産現場、と畜場、動物病院などの場面で用いられる。その産業チェーンとして、川上では、鋼材、非金属、ゴム、プラスチック、ガラス、消毒剤、発酵剤といった原材料関連産業や、焼却設備、高圧炉、生物分解反応器、ろ過器、排気ガス処理設備、堆肥設備などといった施設関連産業が含まれる。また、川中では、無害化処理の工程に必要な技術的なサポートやサービス関連産業がそれぞれ含まれる。この川中が無害化処理に関する産業チェーンの要であり、この行程を経ることによって、川下では、肥料、バイオマスエネルギーなどの製品への転化を果たすことができる。さらに、農業への貢献だけではなく、環境保護や持続可能な利用なども達成することが可能となる。これら全体で、23年には関連産業の規模が前年比8.5%増の約24億3000万元(531億円、1元=21.84円(注4))に拡大したとされる。
(注4)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2024年10月末日TTS相場を使用した。
3 地方での取り組みの例(遼寧省)
中国の主要な畜産生産地では、どのような無害化処理の取り組みがなされているのか、以下に遼寧(りょうねい)省の状況を紹介する。
(1)財政支援
遼寧省は、「先建後補、以賞代補(先に建設し後で補助金を出す、補助金の代わりに成績に応じた奨励金を支給する)」方式を通じ、各地の家畜・家きん無害化処理センターおよびその関連システムの整備・構築を支援している。これにより、病死した家畜・家きんの公的な無害化処理センター32カ所、収集拠点94カ所のほか、専用の収集車両171台が配備され、省内94カ所の畜産自治体全域を網羅している。
2023年には、中央政府からは無害化処理に関する財政補助が1億1342万元(25億円)支給され、省としては3000万元(6億6000万円)を負担することで、豚1頭当たりの損失補助金の額62.5元(1365円)以上を実現した(実際の支給額は市によって異なる)。
(2)関連施設の整備状況
北票(ほくひょう)市農業農村局の副局長は、「北票市は豚の大出荷産地であり、飼養頭数は180万頭に上り、毎年平均して10万頭の死亡豚を処理している」とし、病死した家畜・家きんの集中処理の対象範囲が広がることで、処理を行う企業は黒字を保つことができるようになったとしている。
また、同市にある無害化処理センターの副所長によれば、「高温殺菌法によって病死した動物を処理して肉骨粉を取り出し、バイオマス有機肥料の原料用として有機肥料工場に販売することで、追加の収入が得られている」とされている。
(3)処理関連のシステムの構築状況
沈陽(ちんよう)市およびその下(県など)の地方政府の農業行政部門は、無害化処理に関する産業チェーン全体を一体的かつ閉鎖的に管理している。具体的には、病死した家畜・家きんに関するデータの登録、確認および使用を管理するほか、無害化専用輸送車両の登録とそのGPSによる管理、病死した家畜・家きんの集中一時保管場所と無害化処理場に対する専門監視員の配置などにより、監視体制に空白が生じないようにしている。
また、鉄岭(てつりょう)市の農業農村局は、市内96カ所の大規模飼養施設を対象に、総勢120人の職員と45台の車両を用いて飼養記録の確認を行い、合計18の問題を発見し、是正勧告を発出し、その是正結果の確認も行った。確認の方法について担当者は、「例えば、1万頭の子豚が搬入されて9700頭が販売された場合、差分の300頭について、無害化処理施設を使用した実績があるか確認する」と紹介した。
【調査情報部 令和6年11月28日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9530