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農業経営所得、前年度から5割超の大幅な減少(英国)

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 英国環境・食料・農村地域省(Defra)は24年11月14日、2023/24年度(3月〜翌2月)の農業経営所得(注1)の調査結果を公表した。これによると、同年度の農業経営所得(全農業経営平均)は前年度比53%減の4万5300ポンド(920万円、1ポンド=203.01円(注2))と大幅に減少した。
 このうち、直接支払制度による収入は、農業経営所得の約4割を占める1万8300ポンド(372万円)となったが、直接支払が段階的に縮小されていることを受け、前年度から21%減少した。一方、その代替として拡充が図られている農業環境支援スキームによる収入は、同14%増の1万600ポンド(215万円)と増加したものの、直接支払の縮小による収入減を補うまでには至っていない。首都ロンドンでは、24年11月19日に農業者による数千人規模のデモが報じられたが、この背景には、先日、英国政府が発表した農業資産に関する相続税課税強化措置(注3)に加え、この直接支払の縮小によって政府交付金の受給額が減少していることが挙げられる。
 経営別では、酪農および牧畜経営が前年度比減となった一方、養豚専門経営および養鶏専門経営は大幅増となり、経営間でのばらつきが見られた(図)。

(注1)本稿における農業経営所得は、農業経営から生じた収益から農業に関する総費用を差し引いたもの。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年10月末TTS相場。
(注3)「英新政権の農業関連予算案、予算規模は維持も生産者団体から批判の声(英国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003950.html)をご参照ください。

 
図

酪農経営

 2023/24年度の酪農経営の平均農業経営所得は、経営所得が記録的な高水準となった前年度から68%減の7万900ポンド(1439万円)となった。減少の要因として、乳価が同12%安となったことによる収益の減少に加え、家畜飼養費、電気代や労働費などのコスト増加が挙げられる。ただし、経営所得の分布には大きなばらつきがあり、30%の農場が10万ポンド(2030万円)を超える所得を得ている一方で、23%の農場が赤字経営となっている。これは酪農経営ごとの乳価のばらつきによるものとみられる。

牧畜経営(肉牛・羊など)

 肉牛・羊などを低地(Lowland)で飼養する牧畜経営の平均農業経営所得は、前年度比24%減の1万7300ポンド(351万円)となった。飼料費などの生産コストは減少したものの、農作物や肉牛の減産による収益減がコスト減を上回った。
 また、条件不利地域での牧畜経営の平均農業経営所得は、支払利息など固定費の増加により、同12%減の2万3500ポンド(477万円)となった。

養豚専門経営

 養豚専門経営の平均農業経営所得は、前年度比87%増の13万5800ポンド(2757万円)と大幅に増加した。飼料費や人件費などのコストが増加したものの、豚価の上昇や増産により豚販売収入が同25%増となったことがこれを補った。また、農業経営収益のうち、食品加工・小売、再生可能エネルギーなどの多角化による収益が同59%増の7万1800ポンド(1458万円)と増加したことも所得増加の要因となっている。
 ただし、Defraは、養豚専門経営に関して調査サンプル数(経営体数)が比較的少ないため、経営ごとにばらつきがあることに留意すべきであるとしている。

養鶏専門経営

 養鶏専門経営の平均農業経営所得は、前年度比23%増の14万3600ポンド(2915万円)となった。生産コストは前年度から横ばいとなった一方、卵の販売額が同33%増となったことが要因である。
 ただし、Defraは、養豚専門経営と同じく養鶏専門経営についても調査サンプル数が比較的少ないため、経営ごとにばらつきがあることに留意すべきであるとしている。
【調査情報部 令和6年11月29日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397