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EUとメルコスール間のFTAが最終合意、市場拡大に期待も生産者団体は反発(EU)

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 欧州委員会は2024年12月6日、EUとメルコスール(南米南部共同市場)(注1)間の自由貿易協定(FTA)について、最終的な合意に達したと公表した。関税の取り扱いに関しては、EUからメルコスール向けが91%、メルコスールからEU向けが92%の品目について関税が最終的に撤廃される。これによりEUの企業は、年間40億ユーロ(6728億円:1ユーロ=160.70円(注2))相当の関税支出削減が期待できるとしている。
 
(注1)2024年12月6日時点で、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ、ボリビアの5カ国が加盟する関税同盟。ベネズエラは加盟資格停止中。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年11月末TTS相場。

 
 EUとメルコスール間のFTAは19年に政治合意(注3)されたものの、持続可能性に関する事項やEUの農業部門の反発などにより、その後停滞していた。今回の最終合意に至った背景には、EUの自動車や繊維産業などから早期締結を求める声に加え、保護貿易主義的な圧力が高まる中でEUが保護貿易主義を拒絶していくことを明らかにする狙いなどがある。懸案となっていた持続可能性に関して、(1)パリ協定の要件化(EU、メルコスールのいずれかがパリ協定において重大な違反を犯した場合またはパリ協定からの離脱を決めた場合には、合意の一時停止が可)、(2)パリ協定に沿った30年までの森林破壊の停止、(3)メルコスール諸国がグリーン・デジタル移行を促進するために18億ユーロ(2893億円)の基金拠出、などが19年合意時の内容に追加され、今回の最終合意に至った。
 
(注3)海外情報「EU・メルコスール(Mercosur)貿易協定交渉、政治合意」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002474.html)をご参照ください。

農業部門の合意内容

 今回のFTAの交渉に際してEUは、牛肉、豚肉、鶏肉、砂糖などをセンシティブ品目とし、市場開放を限定的とした。
 牛肉、豚肉、鶏肉については下表のとおり低関税または無税の割当数量を設定する。
表
 砂糖については、ブラジル産粗糖に対して現行の低関税の割当数量の範囲内で、無税の割当枠18万トンを設ける。また、パラグアイに1万トンの無税枠を設定する。
 
 欧州委員会は農業部門のメリットとして、(1)メルコスール向けの輸出手続きの簡素化、(2)オリーブオイル、ワイン、チョコレート、飲料などのEU製品の関税撤廃や一部の乳製品(チーズ3万トン・粉乳1万トンなど)の無税枠設定による輸出拡大の期待、(3)EUで保護される地理的表示(GI)がメルコスールでも保護されることによるメルコスール市場での模倣品流通の防止、を挙げている。

関係団体の反応

 欧州乳製品輸出入・販売業者連合(Eucolait)は、今回のFTA合意に歓迎の意を表明し、関税の削減と撤廃に加えて、市場アクセスの非関税障壁の解決に役立つことを期待するとして、協定の迅速な締結と実施を呼びかけた。
 一方、EU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca)は、「この協定は、コスト高や天候不順に苦しんでいる生産者に経済的な負担を強いるもの」とし、「メルコスール諸国は、EU域内で求められるアニマルウェルフェアや持続可能性の基準を満たしておらず、労働・安全基準も低く低コストでの生産が可能となっており、EUの生産者にとって不公平な競争となる」と激しく非難した。合意後の週明けとなる12月9日には、農業担当大臣や欧州議会議員との意見交換を行うとともに、ブリュッセル市内で抗議活動を行った(写真)。
写真
 今後はEU理事会と欧州議会、各加盟国で同協定発効に向けた議論が交わされることになるが、農業国であるフランスやポーランドなどが現時点で反対の立場を示すなど手続きの難航を予想する声もあり、議論の動向が注目される。
【調査情報部 令和6年12月11日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397