NZ畜産団体、各国のGHG削減目標や政策の比較分析報告書を発表(NZ)
ニュージーランド(NZ)の業界団体であるビーフ&ラムNZ(BLNZ)は2024年12月3日、16カ国・地域(注1)を対象に、農業由来の温室効果ガス(GHG)削減目標や政策の比較・分析を行った報告書を発表した。本報告書は、各国の政策の共通点と相違点を明らかにし、NZの現状と課題を掘り下げることを目的としており、BLNZは報告書に基づき、いくつかの政策提言を行っている。本稿では、主要な論点と政策提言の概要について紹介する。
(注1)NZ、豪州、カナダ、米国、英国、EU、アイルランド、オランダ、デンマーク、ノルウェー、イスラエル、ウルグアイ、ブラジル、日本、南アフリカ、インド
GHG削減目標の国際的な動向
調査対象の16カ国・地域すべてが、農業部門を含む経済全体のGHG削減目標を設定している。ほとんどの国と地域では、2050年までにGHGの「ネットゼロ」の達成を目標としているが、短期的な目標や手法は国や地域ごとに違いがみられる。NZは30年までに05年比で50%の削減を目指し、50年までにネットゼロを達成する計画となっているが、メタンとその他のGHGを分けて目標を設定している点が特徴的となっている(表)。
各国の政策の共通点と違い
各国は農業部門のGHG削減に対してさまざまなアプローチをとっているが、ほとんどの国では、カーボンクレジットによる環境に配慮した経済活動の活性化や、補助金の交付等を通じて環境負荷軽減の取り組みにインセンティブを与える政策を採用している。また、各国とも研究開発を重視する中で、NZはこの分野で特にリードしており、メタン削減技術や家畜飼料添加物の開発に注力しているとしている。具体的な政策は以下のとおり。
(1)農業由来GHGへの価格設定
現状、排出権取引制度(ETS)
(注2)の枠組みで農業由来GHGの排出量に価格を設定している国は存在しない。そのような中、デンマークは、ETSの範囲外ではあるものの、2030年から農業部門、特に家畜由来のGHG排出に対する炭素税の導入を計画している。また、NZも一度延期したものの
(注3)、30年までに農業由来GHGの価格制度(詳細は未定)を導入するとしている。ただし、当該政策は農業者に高い経済的負担を課す可能性があることから、慎重に検討が進められている状況となっている。
(注2)企業に排出枠(GHG排出量の限度:キャップ)を設定し、かつ企業などの間での排出枠の取引(トレード)を通じて、全体的にGHGの排出量削減を目指すキャップ・アンド・トレード型の取引制度。
(注3)海外情報「NZ政府、温室効果ガス排出量取引制度から農業を除外(NZ)」をご参照ください。
(2)補助金、税制優遇措置、炭素クレジットの活用
多くの国と地域は、政策によって「相乗便益」(注4)を最大化させることを主眼としている。米国、EU、カナダなどでは、従来の生産奨励補助金を転用し、生産者がGHGを削減できる農法や技術を導入するための補助金を交付している。一方で、豪州やブラジル、ウルグアイのように、農業補助金を持たない国では、カーボンクレジットの割り当てや低利融資を通じた支援が行われている。NZは、補助金などによる政策的支援がほとんどなく、相乗便益の最大化が重要視されていないと指摘されている。
(注4)一つの活動がさまざまな利益につながっていくこと。森林の保全が、生物多様性の確保につながると同時に、二酸化炭素の吸収源を守り、温室効果対策につながること。
(3)森林吸収カーボンオフセット
国や地域によって異なるが、農業経営の中に林業や植生管理を組み込む統合型のアプローチが多く採用されている。豪州では「農業および土地部門計画(Agricultural and Land Sectoral Plan)」(注5)に基づき、農業と林業の両方を管理している。一方、NZでは、ETSの枠組みで植林などから得られる炭素吸収量をカーボンクレジットとして発行しており、主要なGHG排出削減戦略の一つとなっている。一方で、成長の早い外来樹種の植林が拡大しており、環境的共益は限定的であるとの指摘もある。
(注5)豪州連邦政府が2050年「ネットゼロ」を達成するために策定した6つの部門別計画の一つ。GHG削減に向けた農業・土地利用部門の行動がまとめられている。
(4)土壌の健全性と炭素量の改善
土壌の健全性と炭素量の改善は、各国のGHG削減戦略の中で重要な項目となっており、アイルランドやノルウェーでは、農家が農場の土壌炭素量を測定するための資金援助を行っている。NZは、土壌の健全性を促進し、炭素量を高めることに焦点を当てた政策が比較的少なく、重視していない分野と評価されている。
BLNZの政策提言
BLNZは、各国・地域と比較してNZ政府は生産者に対するインセンティブ措置が不足しているとし、他国などで採用されている新技術導入時のリベートプログラムの実施など、支援の強化を求めている。一方で、農業由来GHGへの価格設定については、農家の生産コストの上昇が避けられず、輸出市場での競争力が失われる可能性が高いことから、導入の再検討を求めている。
【調査情報部 令和6年12月11日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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