豪新興企業の代替たんぱく製品、海外市場へ販路拡大(豪州)
豪州では、増加する世界人口を養うための持続可能で倫理的な食料生産、換言すれば「食料安全保障の強化」という側面から、代替たんぱく質への関心が高まっている。一方で、消費者の安全面への懸念やスケールメリットのパラドックス(注1)の問題もあり、実証レベルから商業規模への移行は容易ではない。そのような中、豪州の新興企業が相次いで海外市場への販路拡大を進めており、本稿ではその動向について紹介する。
(注1)主に培養肉や精密発酵のような先端技術を用いた食料生産に関して議論される課題の一つ。培養プロセスの複雑性や培地コストの高止まりにより、スケールアップによるコスト削減効果が予想ほど進まない状況を指す。
Vоw社
主に培養肉生産を行う豪州の新興企業Vоw社は2024年11月19日、日本のウズラの細胞を使用し、細胞培養技術で生産した新たな肉製品「フォージド・グラス」(注2)をシンガポールと香港の高級飲食店向けに販売を開始したと発表した。同社は24年3月にシンガポール食品庁から同国内での販売許可を取得している。香港では、培養肉の生産や販売に関する具体的な規制はないが、食物環境衛生署(FEHD)所管の食品安全センター(CFS)が発行する指針上の安全基準を満たしているとして、販売許可を取得している。これにより同社は、シンガポールでは3番目、香港では初の培養肉を販売する企業となり、関係メディアは、各国での培養肉技術開発競争の中で一歩リードしていると報じている。
同社は豪州での販売も目指し、23年11月に豪州・NZ食品基準局(FSANZ)に販売承認申請を行っている。現在、第2回目のパブリック・コンサルテーション(注3)が実施されているが、これまでの協議で安全性への懸念は示されておらず、早ければ25年第1四半期までに承認決定が下りると予想されている。
(注2)フォアグラを代替する目的で作られた、培養肉技術を活用した代替食品。ウズラのたんぱく質に加え、ココナッツオイル、ヒマワリ油、そら豆由来のたんぱく質などが配合されている。
(注3)政府から政策原案を文書で関係団体に送付するとともに,ホームページにも掲示し,市民や専門家からの意見を募集する制度。
All G社
主に精密発酵由来の動物性たんぱく質生産を行う豪州の新興企業All G社は2024年11月26日、世界で初めて精密発酵由来のラクトフェリンの販売認可を中国で取得したと発表した。ラクトフェリンは、乳に含まれる生体防御に重要な役割を果たす多機能たんぱく質として知られており、育児用調製粉乳や機能性食品、栄養補助食品などの分野で非常に需要の高い成分とされている。同社によると、中国は育児用調製粉乳市場が大きく、また、近年は機能性食品需要の高まりからラクトフェリンの一大消費地になっており、今回の成果はとても大きいとしている。ラクトフェリンは牛乳1万リットルに対して1キログラムしか含まれておらず、その生産コストの高さが供給上の課題とされてきた。今回の同社の技術は、従来のコストと同等かそれ以下の価格で生産する目途が立っているとしており、今後は米国、豪州、NZ、日本での販売も計画していると報じられている。
豪州連邦政府機関の狙い
豪州連邦科学産業研究機構(CSIRO)は、2024年5月に開催したProtein Futures Symposiumの中で、世界的なたんぱく質需要の増加を国の成長機会として捉えていることを示していた。CSIROは、細胞培養、精密発酵などの代替たんぱく質業界への支援などを通じて、「代替」ではなく従来のたんぱく質を「補完」する位置づけまで成長させると明言している。支援の例として、CSIROは豪州とシンガポールの新興企業を対象に、「食料の未来」をテーマに最新の知見やビジネスマッチングの機会を提供するアクセラレータープログラム(注4)「Venture Exchange Program:Future Food」を継続して実施している。同プログラムは、上記で紹介した2社のような先進企業を生み出す源泉になっていると考えられる。
巨大な畜産業界を抱える豪州であっても、代替たんぱく質業界に対する政策的な位置づけは肯定的であり、それぞれの業界の進展により、豪州は世界におけるたんぱく質供給のリーダー的役割を担う狙いがあるとみられる。
(注4)未上場企業や起業家、一般企業内の新規事業部門などに対して、アクセラレーター(この場合はCSIRO)が支援を提供することで共創・協業を目指すためのプログラム。
【調査情報部 令和6年12月11日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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