英国養豚協会、分娩クレートの使用期間の短縮を推奨(英国)
英国養豚協会(NPA)は2024年12月2日、近年の豚の分娩時に母豚と子豚を分ける分娩クレートの使用の制限や、分娩ペンによる隔離の廃止を求める消費者や政治家の動きに対しての見解を発表した。分娩クレートの使用については、授乳期間中に母豚の動きを制限することにつながるとして、アニマルウェルフェア(AW)の観点から欧州を中心に使用を規制する動き(注)が広がっている。
(注)スウェーデンでは分娩クレートの使用が禁止されており、オーストリアやドイツ、デンマークでも規制を強化している。
英国の豚の分娩方法
英国では母豚の約50%が屋外で飼育されており、分娩時には自由に移動することができるため、高いAW水準であるとされている(写真)。一方、屋内飼育の場合、分娩直前から授乳期間中の約1カ月程度、母豚は分娩ペンに収容され、子豚の圧死を防ぐために分娩クレートにより身動きを制限することが一般的とされている。
分娩クレートの使用を制限する場合の影響
NPAによると、(1)日光と水はけの良い土壌などの養豚に適した条件を満たす土地は、作物の栽培との競合により飽和状態であること、(2)生産コスト上昇による豚肉価格上昇により需要が抑制されていること、(3)厳格なバイオセキュリティの確保が屋内飼育に比べて難しいことなどから、これ以上の屋外飼育を増やすことは難しいとされている(表)。
また、分娩クレートの使用を制限する新たな分娩方法の導入には大きな投資や追加のスペースが必要となることから、子豚生産に影響が出るとされている。
加えて、環境規制や周辺住民への説明などの各種手続きの煩雑さや価格競争力の低下、子豚の死亡率上昇による生産性の低下、飼育担当者のケガのリスクの上昇などの課題があるとされる。
NPAが屋内飼育を行う繁殖農家を対象に実施したアンケート調査では、分娩クレートの使用を制限する飼育方法への移行を5〜10年間の移行期間により進めた場合、46%の回答者が繁殖農家をやめると回答した。また、移行に向けた主な課題として施設改修などへの投資のコスト(46%)を挙げた。
NPAの提案
NPAは、分娩時に分娩クレートを使用する従来の飼育方法を禁止するのではなく、分娩クレートの使用期間を短くするなどの飼育方法への移行を推奨した。これまでも業界の自主的な取り組みとして抗生物質の使用量を大幅に削減してきたことを踏まえて、法律により規制するのではなく業界の自主的な取り組みにより新たな分娩方法への移行を進めるべきであるとしている。
また、分娩時の豚の飼育方法の移行に当たっては、20年の移行期間を設け、施設改修などに対する財政的な支援や同じ基準で生産されていない輸入品よりも高く評価されるような英国市場の仕組みの整備も必要であるとしている。
【藤岡 洋太 令和6年12月12日発】
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