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アーラフーズ社、メタン削減飼料添加物に関する誤情報に反論(英国)

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 デンマークおよびスウェーデンの乳業最大手のアーラフーズ社は12月3日、3−ニトロオキシプロパノール(3−NOP)を主成分とする乳牛のメタンの排出量を抑制する飼料添加物について見解を公表した。
 同社と英国の大手小売業者が11月26日に3−NOPを主成分とする飼料添加物を試験導入することについて発表した後、ソーシャルメディアを中心に同飼料添加物に対する否定的な反応があった。同社は、それらの情報は事実に反しており、同飼料添加物は消費者や家畜の健康に悪影響を及ぼすものではないと理解を求めた(注1)
(注1)3−NOPについては、米国や日本で飼料添加物としての利用が認められている。海外情報「米国食品医薬品局、乳牛の温室効果ガス排出量を削減する飼料添加物を承認(米国)」をご参照ください。
 
 同社英国法人のパドバーグ代表は「同飼料添加物は新しいものではなく、安全性が確認されている上、牛乳に混入するものではない」と述べている。
 また、同飼料添加物の開発に携わったDSMフィルメニッヒ社(本社:スイスおよびオランダ)も12月2日、同飼料添加物を適正に使用する限り、安全性に問題はなくメタンの排出量の削減に効果的であるとし、以下のような見解を公表した。
 
  • 人間が乳製品を摂取する際に、体内には取り込まれない。
  • 欧州食品安全機関(EFSA)や英国食品基準庁(FSA)などの規制当局は、家畜の健康、生産性および乳質に悪影響を与えないという証拠に基づき、その使用を承認している。両機関は、家畜にも消費者にも安全であり、メタン排出量の削減に効果的であるとしている。
  • 多岐にわたる科学的な試験により、家畜と消費者に対して安全であることが証明されており、生乳生産や繁殖にも影響がないことがわかっている。
  • 牛の消化器官で分解されるように設計されており、適切な使用において牛乳や肉への残留はない。
  • 現在、英国を含む68カ国で認可が下りている。
  • 研究開発は15年前に開始され、すでに2年以上にわたり世界中の農場で安全に使用されている。

ソーシャルメディアでの否定的な反応

 米国食品医薬品局(FDA)が動物医薬品の販売などを行うエランコ社に宛てた文書における付属資料の中で3−NOPは、「ヒト用ではない」「男性の生殖能力や生殖器にダメージを与える可能性がある」などの注記(注2)がソーシャルメディアで共有され、これを試験導入しているアーラフーズ社の製品に派生して懐疑的な見方が広まった。
(注2)ヒトが直接摂取するためのものではないことや、取り扱い時の適切な注意を呼び掛けるための記載であり、同飼料添加物を使用した時に家畜や消費者に対するリスクが発生すると述べたものではない。

英国および国外における業界の反応

 英国の酪農・乳業の全国団体であるデイリーUKは、新しい飼料添加物の導入や、それが家畜や消費者に与える影響について消費者が不安を持つことは理解できるとしつつも、安全当局が審査を行った上で同飼料添加物を認可していることを強調した。
 英国のソーシャルメディアで否定的な情報が拡散された後、豪州やニュージーランドにも騒動が拡大し、豪州では一部の連邦議員が同添加物を給餌された牛から生産された畜産物の不買を呼びかける事態も発生している。このため、豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)のクロウリー代表は、「MLAは産業界や大学と連携し、多額の資金を投じて同飼料添加物の研究を進めてきており、豪州農薬・動物用医薬品局(APVMA)や豪州農業・水資源省から必要とされるすべての承認を取得している」との声明を発表している。
 また、この騒動を受け、同飼料添加物を使用していないことをアピールする酪農事業者や有機酪農協同組合も出てきている。
 カナダのダルハウジー大学のシャルボア博士は、同飼料添加物の利用は温室効果ガス削減に向けた建設的な開発であるものの、消費者にはより丁寧で透明性のある形でアピールすることが大切であると述べている。
【渡辺 淳一 令和6年12月17日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527