米国農務省、メキシコからの生体牛輸入再開に関する手順書に署名(米国)
米国農務省動植物衛生検査局(USDA/APHIS)は2024年12月13日、メキシコ農業農村開発省(SADER)との間でメキシコからの生体牛輸入再開に関する手順を定めたプロトコル(手順書)に署名した。米国は同年11月22日、メキシコ南部の牛からラセンウジバエが検出されたことを受け、同国からの生体牛輸入を一時的に停止していた。輸入再開の時期については、輸入前検査の実施に一定の期間を要することなどから、年明け以降と見込まれている。
1 生体牛輸入停止の経緯
メキシコ当局は2024年11月22日、USDA/APHISに対し、グアテマラ国境に近いチアパス州の牛からラセンウジバエが検出されたことを通知した。ラセンウジバエはハエの幼虫で、温血動物の傷口から侵入し生体組織を傷つけるため、家畜生産にとって脅威となる。メキシコからの通知を受けたUSDAは、直ちにメキシコからの生きた牛およびバイソンを含む反芻動物の輸入を停止した。
ラセンウジバエは、米国では1966年、メキシコでは91年にそれぞれ根絶が宣言されていた。また、USDAは06年以降、パナマ東部で不妊バエの生産・放飼を行うことで、南米から中米への北上を阻止してきた。しかし、中米での農業生産の拡大や、家畜の移動の増加などに伴い、過去2年間にパナマ、コスタリカ、ニカラグア、ホンジュラス、グアテマラへと被害地域が拡大した(図)。
こうした拡大に対処するため、USDAは12月13日、1億6500万米ドル(250億3700万円:1米ドル=151.74円(注1))の緊急予算措置を発表した。同予算は、中米における不妊バエの生産・放飼の支援に充てられる。USDAのモフィット市場取引・取締担当農務次官は、パナマの施設で生産される不妊バエの生産能力を、年間2000万匹から1週間当たり9500万匹まで増産したと述べている。USDAは、米国南部国境沿いの生産者に対して兆候の確認と報告を呼び掛けるとともに、メキシコおよび中米諸国と連携し、不妊バエの生産・放飼、検疫やサーベイランス(監視)の実施を通じてまん延防止に取り組むとしている。
2 米国牛肉生産への影響と輸入再開の見通し
米国の牛群縮小が続く中、メキシコからの生体牛輸入頭数は増加傾向にある。同国からの2023年の生体牛輸入頭数は130万頭(前年比34.2%増)となり、米国の肥育もと牛頭数の5%を占めた。今回の輸入停止に伴い、24年12月の米国の肥育もと牛価格(注2)は前月比で6%上昇しており、米国の牛肉産業からは、輸入の早期再開を求める声が挙がっていた。
こうした中で両国がプロトコルに署名したことにより、輸入前検査の実施や証明書の発行といった具体的な措置が確立されたことになる。対象となる牛は、USDAの認可を受けた係留所内で、メキシコ食品衛生安全品質管理局(SENASICA)の認めた獣医師による検査が行われる。この検査では、兆候や傷口の有無の確認、駆虫薬(イベルメクチン)の投与が行われ、合格した牛には検査証明書が発行され、米国当局による再検査などを経て米国に輸入される。検査の段階で兆候や傷口が発見された場合は輸出対象外となり、傷の治療や、必要に応じて検査機関へのサンプル送付が行われる。ラセンウジバエが検出された場合、施設の清掃・消毒などを行い、当該施設からの輸出は最低30日間(注3)停止される。
今後の再開見込みについてUSDAのシフォード首席獣医官は、「年明け以降、徐々に再開される可能性が高い。プロトコルに同意したものの、実施には複数の段階を経る必要があり、再開には時間を要するだろう」と述べている。
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年11月末TTS相場。
(注2)オクラハマの相対取引価格、750―800ポンド、去勢。11月平均価格の100ポンド当たり252.8米ドル(1キログラム当たり846円)。12月(第1週および第2週の加重平均)は同268.42ドル(同898円)。
(注3)全面コンクリートの施設は最低30日間、土のある係留所を有する施設は最低90日間。
【小林 大祐 令和6年12月26日発】
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