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食生活指針諮問委員会、食肉および卵の摂取量を減らすよう提言(米国)

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 米国政府の諮問機関である米国食生活指針諮問委員会は2024年12月10日、米国保健福祉省(HHS)および米国農務省(USDA)に対して、科学報告書(Scientific Report of 2025 Dietary Guidelines Advisory Committee)を提出した。本科学報告書は、HHSおよびUSDAが5年ごとに改定している「米国人のための食生活指針」策定のために活用される。

1 科学報告書の概要

 「米国人の食生活指針」は、米国内の食事に関連する慢性疾患の予防と健康増進を目的とした推奨事項を提供し、各個人にとって健康的な食事を選ぶ際の指針となるものであり、米国における栄養プログラムや学校給食などの栄養政策の基盤となるものである。指針の策定に当たっては、食生活諮問委員会への諮問・答申を経てHHSおよびUSDAが起草することとされている。
 食生活諮問委員会からの科学報告書によれば、現状の米国の食事摂取量について検討した結果、生涯を通じて、野菜、果実、乳製品(大豆性の代替品含む)、魚介類、ナッツ・種実類、大豆製品および全粒穀物の摂取量は現在の推奨摂取量を下回っている一方、精製穀物を含めた穀物およびたんぱく質食品、特に食肉および卵の摂取量は推奨量以上となっているとされる。このため、生涯を通じてビタミンD、カルシウム、カリウムおよび食物繊維が不足し、ナトリウム、糖類および飽和脂肪酸が過剰な栄養素と指摘されている。
 食生活諮問委員会では、栄養関連の慢性疾患の有病率について、人口統計学的な解析を行い、健康の公平性に焦点を当てながら検証が行われた。これまで提出されてきた報告書の中では、初めて経済的地位、人種、民族、文化的背景の影響とそれぞれのライフステージを考慮するよう提言された。
 また、健康的な米国の食事パターンとして、まめ類の摂取量を増加させる一方で、でん粉質の野菜、食肉および卵の摂取量を減少させることなどが提言された(表)。なお、アルコール飲料については、男性は1日2杯以下、女性は1日1杯以下に抑えるという既存の基準を据え置いた。
 さらに、スナック菓子、甘いシリアル、冷凍食品などの加工度の高い食品については、米国人の食生活の大部分を占めているとされており、委員会は、加工度の高い食品と肥満との関連性などを示す数十件の研究結果について検討したが、研究の質に懸念があるとし、勧告を行うには証拠が限定的すぎると結論づけた。
表 科学報告書で提案された品目ごとの摂取量目安

2 業界の反応と今後の見込み

 畜産業界をはじめ多くの農業団体は、今回の科学報告書の内容について反対を表明している。北米食肉協会(NAMI)は、食生活に食肉を取り入れることで、報告書内で多くの米国人の摂取が不十分であると指摘されたたんぱく質、鉄分、亜鉛、銅、ビタミンB6、ビタミンB12、カリウムの必要摂取量をより簡単に満たすことができるとしている。このため、食肉の消費削減を勧告する本報告書に強く反対し、関係機関にその拒否を強く要請していくとしている。また、全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)も、指針が策定されてから40年の間、牛肉の消費量は減少しているにも関わらず、米国人の肥満や慢性疾患の罹患率はかつてないほど高まっているとし、牛肉の摂取量を減らすよう助言する本報告書は女性、子供、青少年、高齢者など弱い立場にある人々を危険にさらすだろうと表明している。IDFA(国際乳食品協会)は、報告書で乳製品が野菜、果物、穀物などと並ぶ重要な栄養源として引き続き位置付けられていることを評価しつつ、乳脂肪が健康に良いものであるとする研究の大部分が反映されていないとして、不満を表明している。
 今後、60日間のパブリックコメント期間を経るとともに、2025年1月16日に公聴会が行われる予定である。その後、HHSおよびUSDAが起草作業を行い、25年末までに指針が公表される見込みとなっている。なお、「米国人のための食生活指針」の策定作業中に政権が交代することはまれであり、今後策定される指針について、民主党政権下で提出された科学報告書から方向性が大きく変わる可能性がある。特に次期共和党政権では、HHSの長官に内定しているロバート・F・ケネディ・Jr氏が加工度の高い加工食品の取り締まりを強化すると公言しているため、新たに摂取量に関する基準を設ける可能性がある。
【調査情報部 令和7年1月7日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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