EUとメキシコ、農産品の関税撤廃などで最終合意（EU）

　欧州委員会は2025年1月17日、メキシコとの自由貿易協定（FTA）の再交渉により、農業分野を含む貿易の促進と経済安全保障を強化することで最終合意したと発表した。
　2000年に発効した同FTAは、農産品などの関税撤廃が対象外となっており、18年4月の再交渉では、農産品を対象にすることが大枠合意されていたものの、メキシコ側のエネルギー分野での課題などから最終合意が遅れていた。
　欧州委員会によると、今回のFTAが更新されると、ほぼ、すべての品目で関税が撤廃される。
　今回の合意を受けて欧州委員会のクリストフ・ハンセン農業・食品担当委員は、「既に20億ユーロ（3328億円：1ユーロ＝166.42円^（注1））以上の農産品や食品をメキシコに輸出しているが、今回のFTAの更新は同国市場におけるEU食品のシェア（市場占有率）を高めることにつながる」とし、メキシコへの農産物などのさらなる輸出促進に期待を述べた。
 
（注1）三菱UFJリサーチ＆コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年12月末TTS相場。

　欧州委員会によると、EUの農産品や食品の輸出額の約1％（2023年）をメキシコが占めており、これらの多くが関税の対象であるとしている。
　今回の合意では、EU産の肉類や乳製品などに関税割当が設定される（表1、2）。また、ブルーチーズやヨーグルトは発効から6年後以降に関税が撤廃される。

　一方、メキシコ産畜産物の関税については、牛肉や家きん肉に関税割当が設定される（表3）。

　EUの地理的表示（GI）制度で保護されている食品や飲料製品568品目がメキシコでも保護されることになる。既に蒸留酒などの232品目が保護されているが、イタリア産チーズのパルミジャーノ・レッジャーノやプロシュット・ディ・パルマ（パルマハム）、オランダ産チーズのゴーダ・ホラントなどが新たに保護の対象となる。

　メキシコからEUに輸出される農産品や食品は、EUの消費者の安全や動植物の健康、遺伝子組み換え作物などの規則を満たすことが明記された。
　また、アニマルウェルフェアの促進や家畜などへの抗菌性物質使用の課題について緊密に協力することなどが盛り込まれた。

　EUは2024年12月に発表したメルコスールとのFTAの最終合意^（注2）など、他国との貿易交渉を加速させている。
　アジアでは、23年にタイ、24年にフィリピンとの貿易交渉を再開し、25年1月20日にはマレーシアとの間でFTA交渉を再開することに合意したと発表した。
　現地報道などによると、今回のEUとメキシコとのFTAの更新合意の背景には、米国のトランプ政権発足による関税の引き上げなどの貿易上の混乱が予測されていることや、EUと中国の貿易摩擦^（注3）などにより、EUとメキシコの双方にとって米国や中国への貿易上の依存度を減らしたいという狙いがあるとされる。
 
（注2）海外情報「EUとメルコスール間のFTAが最終合意、市場拡大に期待も生産者団体は反発（EU）」（https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003983.html）をご参照ください。
（注3）海外情報「EU産豚肉に対する中国のアンチダンピング調査が開始（EU）」（https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003848.html）および「EU産乳製品に対する中国の反補助金調査が開始（EU、中国）」（https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003917.html）をご参照ください。

　欧州乳製品輸出入・販売業者連合（EUCOLAIT）は、1月20日に発表したプレスリリースの中で、中国に次ぐ世界第2位の乳製品輸入国であるメキシコにおけるEU産乳製品の関税撤廃を歓迎し、米国のトランプ政権発足を踏まえて「EUとメキシコにとって、地政学的な結びつきの重要性が増す中で、まさに時宜を得たものとなった」と輸出拡大への期待を述べた。

　変更協定の発効に向けて、EU側では今後、欧州議会とEU理事会による承認が必要となる。