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豪州の酪農家戸数、4千戸を割り込み減少が進む(豪州)

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 デイリー・オーストラリア(DA)が公表している「In Focus 2024」によると、2023/24年度(7月〜翌6月)の酪農家戸数は、3889戸(前年度比6.6%減)と4000戸を割り込んだ(図1)。DAによると、土地価格の高騰や労働力不足、異常気象などが、小規模酪農家を中心とする離農の要因とされている。農場戸数は減少する中で、1戸当たり経産牛飼養頭数は342頭(同10.4%増)と増加しており、豪州の酪農は大規模集約的な生産システムへ移行している。
 
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 酪農は豪州で牛肉、羊肉に次ぐ3番目に大きな産業であり、生乳生産の大半はビクトリア州、ニューサウスウェールズ州、タスマニア州の南東海岸で行われている。豪州連邦政府によると、2023/24年度には約84億リットル(865万2000トン相当)の生乳を生産し、約3万1300人の雇用と約62億豪ドル(6068億円:1豪ドル=97.87円(注1))の農産物出荷額を創出している。
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年1月末TTS相場。

酪農関係者からの声

 クイーンズランド州の酪農家で地元乳業会社EastAusMilkの取締役であるバロン氏は、高金利と地価の上昇により、若い農家の新規参入がますます困難になっている。また、最近の生乳価格は上昇しているが、飼料、燃料、肥料などの生産コストも同様に上昇しており、潜在的な利益を侵食していると述べている。
 南オーストラリア州酪農家協会のブロークンシャー会長は、南オーストラリア州とビクトリア州西部の干ばつ状況が、投入コストの上昇要因であると述べた。干ばつ時には飼料不足が課題となるが、2024年は電気代や人件費の上昇も加わり、収益性の悪化により酪農家の離農が早まっている地域もあると述べている。

3分の1以上の酪農家が経営転換に前向き

 豪州のカーティン大学の調査によると、不安定な生乳価格、労働力不足、生産コストの上昇などの財政的な負担に加え、気候問題や精神的負担(注2)などが、酪農家が酪農からの撤退を検討する理由であることが判明した。
(注2)豪州の農業生産者は、立地条件などから他の農業者との交流も限られ、孤立感を感じる者が多いとされている。中でも酪農は、毎日の作業が求められることで、交流の機会も限られ、より孤立感を感じるとされている。豪州連邦政府などは、これら農業者の精神的ケアを行うため、24時間対応のホットラインの開設などを支援している。

 同大学は、豪州国内の酪農家147人を対象に2023年に調査を実施した。調査の結果によると、72%の酪農家は、生産コストの増加、干ばつや洪水など、大きな課題に直面していると回答し、69%の酪農家は、長時間労働と低所得などが農家やその家族に負担をもたらしていると回答している。
 また、54%の酪農家は、酪農以外の経営(主に穀物や肉牛生産)への転換について前向きであると回答した。しかし、収益性や土地の適合性が適していないことを理由に、経営の転換を躊躇する酪農家もいた。  
 3分の1以上の酪農家は、酪農から園芸やその他の経営への転換に前向きであり、転換を検討する理由として最も多かったのは、高齢化や健康上の問題(酪農家全体の16%)であり、次いで労働力不足(同12%)と生産コストの増加(同12%)であった。また、経営の転換に必要な支援として、資金援助と技術的アドバイスが最も重要であるとしていた。
 さらに調査では、豆乳などの植物由来飲料の普及も酪農業界にとって新たな競争要因となっていることが指摘された。今後も酪農家戸数の減少が見込まれることから、生乳生産量への影響が懸念されている。
【田中 美宇 令和7年2月3日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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