畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 海外情報 > 2025年 > 牛肉価格下落の原因と今後の取り組みに関する政府関係者の見方(中国)

牛肉価格下落の原因と今後の取り組みに関する政府関係者の見方(中国)

印刷ページ
 2024年12月26日、中国中央電視台(CCTV)農業専用チャンネルの番組「三農(農業、農村、農民)問題を三人が語る」で、「牛肉価格が振るわない。いかにしてこの苦境を脱するのか(注1)」が放送された。同番組には中国農業農村部畜牧獣医局畜牧室の王室長および中国農業科学院北京畜牧獣医研究所の李副所長兼国家肉牛産業技術体系(注2)在職科学者がゲストとして参加した。両者の主な発言は以下の通り。

 (注1)12月27日に中国商務部が公表した輸入牛肉に対するセーフガード措置の実施に関する調査については海外情報「中国商務部、輸入牛肉に対するセーフガード措置実施の調査を開始(中国)」(令和7年1月28日発)をご参照ください。
 (注2)国家肉牛産業技術体系については海外情報「牛肉の規格策定(標準化)が進行(中国)」(令和6年11月29日発)をご参照ください。

中国肉牛業界の状況(王室長)

 中国の牛肉および生体牛の価格は下がり続け、牛肉価格は連続12カ月の下落、生体牛の価格に至ってはこの半年間で24%も下落し、過去5年で最低の価格を更新した。全国の肉牛飼養場は約740万カ所あるが、基本的には小規模経営であり、年間の出荷頭数50頭以上の飼養場は全体の37.2%に留まる。2023年以降、肉牛産業は変化の様相を呈しており、飼養段階では赤字が続いている。肉牛飼養農家の1頭当たり赤字額は1800元(3万8628円(注3))程度になっており、全肉牛飼養農家の69.6%が赤字状態になっている。このような状況は、同産業が発展するようになって以降何年も直面してこなかったような苦境である。
 このような状況に対して、中国農業農村部は24年9月、国家発展改革員会などと連名で「肉牛乳牛生産の安定化に関する通知」(注4)を公表した。

 (注3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2025年1月末日TTS相場である1元=21.46円を使用した。
 (注4)肉牛乳牛生産の安定化に関する通知については海外情報「中国農業農村部、肉牛乳牛生産の安定化に関する通知を公表(中国)」(令和6年11月8日発)をご参照ください。

牛肉価格下落の五つの要因(李副所長)

 牛肉価格が下落した原因は、第1に、牛肉輸入量が増加したことで国内市場が影響を受けたことにある。2023年の牛肉輸入量はわが国の牛肉生産量の3分の1を超えていた。輸入量増加の背景には、国内産牛肉だけでは需要に対応できないということではなく、一部の牛肉商品の価格は高かったことを受けて、そのような牛肉を輸入することで利益を得ていた事業者もいた、ということがある。
 第2に、消費減少の影響を受けたことである。下降傾向にある中国経済の影響で、牛肉消費に対する消費心理が冷え込んだ。
 第3に、産業も市場も成熟しておらず、肉牛産業全体、すなわち飼養、加工、販売、飲食のそれぞれの段階で適切な利益配分が行われず、飼養段階の負担が倍増してしまったこと。さらに、牛肉や牛肉製品の規格が定まっていないことも、適切な利益配分が行われない状況に繋がっている。中国の一般の消費者は牛肉の種類やブランドを知らずに、意識せずに消費している。これでは差別化を図ることは困難で、中国の生産現場、市場、そして消費者に効果のある中国独自の牛肉の規格を作っていく必要がある。そのような規格があって市場は成熟することができる。
 第4に、牛肉輸入量の増加によって一部の飼養農家が「牛を飼っても儲からない」という心理状態に陥り、牛を手放したことから出荷頭数が増えてしまったことである。これは、一部の地域で未経産牛まで出荷してしまう状況になり、将来的な肉牛産業の発展が危ぶまれる事態となっている。
 第5に、不適切なルートで市場に流れ込んだ安価な牛肉および生体牛が存在することである。

中国肉牛業界が今後取り組むべき方向

(1) 遺伝子対策、飼料対策、疾病対策、規模対策の強化(王室長)
 中国海関総署(税関)が把握しているデータから見れば、輸入牛肉1キログラム当たりの税抜き価格は34元(730円)程度であるが、国産牛肉の価格は同70元(1502円)程度と高い。この違いは、主な輸入先では放牧方式で生産しているため配合飼料の利用が少ないことから、生産コストが安いということに由来する。他方で、中国は1人当たりの資源が少ないという弱点を持っている。現在進めている政策によって生産段階では一定の効果が出ているが、産業全体で見れば苦しい状況は変わらない。長期的に見れば、産業として自ら強くなること、すなわち、遺伝子、飼料、疾病対策および規模などを強化すること、これこそがわが国の肉牛業界が持続的、かつ、健康的に発展するための長期的な方向である。
 遺伝子については、例えば全国肉牛遺伝子改良計画を進めることである。家畜遺伝子による産業科学への貢献率は40%に達しており、この方面の取り組みは今後も大きな潜在力を秘めている。
 飼料については、配合飼料と粗飼料の比率が国外では3:7であるが、わが国は4:6である。これについて政府の関係部署は「粗飼料の高質量発展に関する意見」を発出し、優良な粗飼料の開発を支援し、国内の牛および羊産業の発展に適した優良な粗飼料の提供を進めることとしている。生産コストの中で飼料コストは約70%を占める。このため、飼料に関する取り組みも生産コストを下げる重要な鍵となる。
 疾病対策については、疾病には、重大な家畜疾病、人畜共通疾病および一般的な家畜疾病があることから、それぞれについて総合的に対策を進め、平時の免疫対策と疾病発生後の殺処分、清浄化対策とを適切に組み合わせ、さらにはこれらに関する社会的なサービス組織を育成することで全体的な疾病対策力を向上し、疾病による損失を防ぐことである。
 規模については、適切な飼養規模の経営に誘導していく、ということである。施設や装備を更新し、生産レベルを引き上げることが重要である。
 総じて言えば、肉牛という畜種は本質的には他の畜種に比べて疾病の発生が比較的少ないなど一定の優位性を持っている。施設整備への支援などにより適正規模の経営に飼養主体を誘導していくということが肝要である。

(2)適性品種の育成など(李副所長)
 肉牛の品種に関しては、わが国は交雑種が多く、これが飼養頭数全体の80%を占める。そのうちシンメンタール種との交雑が80%となり、つまりはシンメンタール種の交雑種が中国の肉牛飼養頭数の60〜65%を占めている。このような状況に対し、一方では中国に適した独自の品種比率を高めること、もう一方では肉牛遺伝資源改良計画を進め、地域を分け、産地ごとに最適な品種の交配や改良を進めることで産業全体として効率を高めていくこと、である。
 飼料についても、南方地域の植物である棕櫚(しゅろ)のカスに発酵技術を組み合わせ、肉牛1頭当たりの飼料コストを4元(86円)下げるといった試験を行ったことがある。それぞれの地域の中から、コストを下げ、生産効率を高められる飼料資源を発掘していくことが重要である。
 総じて言えば、多様な取り組みを同時に進めること、飼養段階のいくつかの重要なポイントで集中的、かつ、不断に努力を続けていくこと、そうして産業競争力を徐々に引き上げていく、ということが重要である。
【調査情報部 令和7年2月6日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9530