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欧州委員会、EU農業の指針を発表(その1:域内支援関係〜農家への配慮をより鮮明に〜)(EU)

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 欧州委員会は2025年2月19日、2040年までの域内農業・食品産業の将来的な方向性とその達成のために実施する政策などを示す「農業と食のビジョン(A Vision for Agriculture and Food)」を公表した。「次世代のための魅力的な農業および食品産業を共に形成する」とされた副題が示すとおり、農業を将来にわたって持続可能かつ競争力のあるものとするため、世代交代の促進、生産者の公正な収入の確保、EUの食料安全保障・競争力の強化などに取り組むとした。
 前体制下(欧州委員会は24年12月より現体制)で重要視された持続可能性に関する事項は減少し、競争力の強化など農家に配慮した内容となっている。以下は、本ビジョンで示された主な内容のうち、域内農業の支援に関するものである(注1)
 
(注1)貿易に関する内容は海外情報「欧州委員会、EU農業の指針を発表(その2:貿易関係〜輸入品へのEU基準の適用を強化へ〜)(EU)」をご参照ください。

収入の確保と世代交代の促進

 若手が就農する魅力的なEU農業となるためには、収入の確保(農業収入は他産業の6割程度にとどまる)が重要であり、(1)農家が生産費を下回る価格での農産物販売を強制されないよう関連規制(不公平な取引慣行指令、共通市場規則など)の見直し、(2)2025年中に策定するバイオエコノミー(注2)戦略による持続可能な農産物生産や炭素クレジット制度による炭素貯留などへの取り組みへのインセンティブの付与、再生可能エネルギーの生産・販売など、補完的な収入源の確保を支援、(3)世代交代に必要な勧告を盛り込んだ「世代交代戦略」を2025年に策定−などの取り組みを行う。
 
(注2)再生可能な生物資源やバイオテクノロジーなどを利活用し、持続的で再生可能性のある循環型の経済社会。

共通農業政策(CAP)の見直し

 現行CAPを簡素化し、的を絞った支援を行う。具体的には、食料生産や環境保全に積極的に取り組む農家や、特に若手農家や自然条件に制約のある地域の農家に重点をあてた支援とする。また、要件を課すこと以上にインセンティブの付与を重視する。

食料安全保障と競争力の維持・強化

 飼料原料用大豆かすに代表されるたんぱく質の自給率向上と輸入先多様化のための計画の策定や肥料の輸入依存低減のために域内生産を支援する。また、規制を簡素化して農家の負担を軽減する。2025年上半期に、現行農業法制(CAPを含む)の包括的な簡素化を提案する。

畜産に関する長期的な見通しの策定

 EUの畜産部門は、経済、農村地域、環境と景観の維持の観点から極めて重要であるため、専門の作業部会を立ち上げ、長期的な見通しを作成する。検討課題は、(1)国際競争力などの課題の診断、(2)相互主義の適用も視野に入れた対応策、(3)環境への影響に対処する方法、(4)投資、技術開発・革新の促進、(5)持続可能な生産モデル−である。
 アニマルウェルフェア(AW)に関しては、ケージ飼育の段階的廃止を含めた関連法令の改正を最新の科学的知見に基づき行う。その際は、経済的影響を考慮し、支援と適切な移行期間を設ける。また、EUのAW基準を輸入品へも適用する(注1)

その他

 自然との共生のため、農場での持続可能性評価に関する自主的なEU共通の基準(ベンチマークシステム)を開発し、段階的に導入。生物農薬への市場参入を促進する。
 また、農村地域における公正な生活・労働条件向上のため、「農村行動計画」を改訂するとともに、消費者、農家、業界、当局など幅広い関係者を交えた「食品対話」を毎年実施し、食品価格や技術革新などの課題の解決策を見出す。

関係団体の反応

 EU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca)は、今回示された農業政策の方向性には「前進」と一定の評価をしたが、今回言及されなかったCAPの予算増額や財源こそが重要であるとした。また、欧州乳製品輸出入・販売業者連合(Eucolait)や欧州家畜食肉貿易業者連合(UECBV)は、歓迎の意を示し、さらなる規制の簡素化を期待するとした。一方、欧州環境事務局(EEB)やグリーンピースなどの環境関連団体は、2024年9月に関係29団体からなる戦略的対話で提言された内容(注3)から後退していると批判した。具体的には、(1)動物性たんぱく質から植物性たんぱく質への移行の支援が、本ビジョンでは言及されなかったこと、(2)CAPの「的を絞った支援」の対象が拡大され、当該取り組みが消極的になったこと、(3)さらなる環境要件の簡素化が示唆されていること、などを挙げている。

(注3)海外情報「EU農業の将来に関する共通理解と方向性を示す「戦略対話」の報告書が公表(EU)」を参照ください。
【調査情報部 令和7年2月21日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527