オランダ、政府による畜産農家への廃業支援などで豚飼養頭数が減少(EU)
オランダ中央統計局によると、2024年の同国の豚飼養頭数は前年比2.5%減となった(図1)。オランダでは、環境規制の強化などにより豚飼養頭数は減少傾向で推移しているが、23年からは窒素の排出削減を目的としてオランダ政府が実施した畜産農家への廃業支援などにより、養豚生産者数の減少も続いている。
23、24年の廃業支援の内容
2023年7月から24年12月まで申請を受け付けていた畜産農家に対する廃業支援策(LbvおよびLbv−plus)は、ナチュラ2000(Natura2000)指定地(注1)とその周辺などの畜産農家(豚、乳牛、子牛、家きん(鶏、七面鳥))を対象に、畜舎などの解体費用の補助や生産権の買い取りを行うものであり(表1)、オランダ政府によると期日までに1587件の申請があったとされる(表2)。
今後、政府が申請内容を審査した上で、半年以内にすべての手続きが完了する見込み(注2)とされており、最終的に政府の廃業支援を受けることが確定した生産者は28カ月以内に畜舎などの解体・撤去を終える必要がある。
(注1)ナチュラ2000指定地:EUの野鳥保護指令(79/409/EEC)と生息地指令(92/43/EEC)に基づいた指定地で、野鳥などの動植物の生息地の保護が義務付けられている。
(注2)2025年2月14日時点で、976戸の畜産農家がすべての手続きを完了している。
その他、オランダでは、19年〜20年に臭気対策として養豚生産者の廃業支援を行い、これにより278戸が廃業した
(注3)。また、24年8月には、畜産農家の廃業や移転支援(29年まで)に7億ユーロ(1133億円:1ユーロ=161.86円
(注4))の予算を充てることを欧州委員会が承認している。
(注3)海外情報「オランダ政府による養豚生産者への廃業支援策で278戸が廃業へ(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002991.html)をご参照ください。
(注4)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2025年1月末TTS相場。
廃業支援の申請者の内訳
LbvおよびLbv−plusにより廃業申請のあった養豚生産者数を州別に見ると、主要豚肉生産地域である北ブラバント州などの南東部で申請者数が多く、リンブルフ州では同州の養豚生産者の50.2%が廃業申請を行った(表3、図2)。
2025年2月12日には、同州で6つの養豚場を経営するオランダ最大規模の養豚生産グループ(飼養頭数:繁殖用雌豚5000頭、肥育豚4万5000頭)が政府の廃業支援を活用して年内に廃業すると発表した。廃業の理由として同グループの代表は、効率的な養豚のために規模を拡大してきたものの、近年の環境規制やアニマルウェルフェアに関する基準の厳格化により、大規模生産者が不利な立場に置かれていると感じており、今後の養豚経営への見通しが立たないことを挙げている。
現地報道などによると、今回の廃業支援でオランダ国内の18%の生産者が廃業する見込みであり、廃業する生産者の経営規模は不明としつつも豚飼養頭数は12〜15%程度減少すると見込まれている。
水管理委員会は畜産農家戸数減少による環境への負の影響を懸念
同国中部の治水施設の管理などを行う行政組織である水管理委員会は2025年2月12日、畜産農家への廃業支援により多くの生産者が廃業することで、環境面などへの影響を懸念する声明を発表した。
同委員会がヴィアースマ農相などに宛てた書簡の中で、畜産農家が廃業し牧草地が減少することにより、(1)耕作地への転換は土壌の水分保持能力の劣化、(2)果樹園への転換は灌漑用水の利用増加、(3)球根栽培への転換は農薬散布量増加による水質悪化の可能性、があるとしている。そのため政府に対して、達成すべき目標を明確にした上で、牧草跡地の適切な利用に向け政府が主導的に取り組むことを求めている。
【藤岡 洋太 令和7年2月21日発】
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