米国政府、人獣共通感染症対策に向けた枠組みを策定(米国)
米国疾病予防管理センター(CDC)、内務省(DOI)および農務省(USDA)は2025年1月10日、米国では初となる「国家ワンヘルス(注)フレームワーク(NOHF)」を策定した。新型コロナウイルス感染症や高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)による乳牛等の家畜や人への感染が発生する中で、米国政府は将来に向けた対策の基盤を確立し、次の疾病の出現に備えることを目指している。
(注)人や動物の健康、それらを取り巻く環境を包括的に捉え、関連する人獣共通感染症などの分野横断的な課題に対して、関係者が連携して取り組むとする考え方。
1 策定の経緯
米国では、人獣共通感染症への対応と公衆衛生上リスクとなる次の疾病の出現への備えを強化するため、連邦政府や州政府に加え、非政府機関、学術機関や民間などとの連携を強化し、ワンヘルスを実現するための国家的な枠組み(フレームワーク)が求められてきた。このため、2023年包括予算法において、特に連邦政府機関の調整に焦点を当てた本フレームワークの策定が決定し、この度の公表に至った。24年1月には、CDC、DOI、USDAに加え、野生動物、環境、開発、州、通商、防衛、安全保障その他の分野に関する合計24の部門・機関を含む米国ワンヘルス調整ユニットが設立された。
CDC、DOIおよびUSDAは17年12月、全米を対象とした「ワンヘルス・人獣共通感染症の優先順位付けワークショップ」を開催し、連邦政府が共同で取り組むべき、米国にとって最も懸念される人獣共通感染症(常在および新興感染症)の特定および優先順位付けを行っている。同ワークショップでは、優先順位の上位から(1)人獣共通感染症としてのインフルエンザ(2)サルモネラ症(3)ウエストナイル熱(4)ペスト(5)新興コロナウイルス感染症(SARS、MERS)(6)狂犬病(7)ブルセラ症(8)ライム病の8つが該当する疾病として特定されていた。
2 フレームワークの概要
本フレームワークは、(1)調整・協力・コミュニケーション(2)予防(3)対応準備(4)発生状況調査・対処・回復の調整(5)サーベイランス(6)検査・診断能力(7)人材確保の7つの分野において、各疾病共通の連邦政府一体となって取り組むべき目標を示している(表)。本フレームワークは今後5年間(2025〜29年)の連邦政府全体における多くの機関や学術機関との調整・協力・コミュニケーションを促進するための体制を確立するものであり、期間が終了するタイミングでフレームワークの目的や内容を更新することとなっている。
本フレームワークは、個別の疾病に対する対策について定めるものではないが、連邦政府として支援する分野や強化する取り組みが示されている。これまで各省や機関においてそれぞれ実施されてきた取り組みが、所掌業務を包括する形で強力なガバナンス構造が構築されることになった。また、本フレームワークでは特に診断試薬やワクチンの開発、そして、人獣共通感染症に関する基盤的な研究を行うことが取り上げられている。
本フレームワークの策定によって、人獣共通感染症の研究、検査・診断に必要な試薬の開発、そして、ワクチンや治療薬の開発や製造の分野に対して、連邦政府からの資金援助が見込まれている。また、第二次トランプ政権においては、1月20日新たな連邦組織として、「政府効率化省(DOGE)」の設置を発表しており、今後、各連邦政府組織における既存の規制等について合理化を目指すとされており、ワンヘルス実現にとって重要なワクチン、治療・診断薬の承認プロセスが加速される可能性がある。
現在、米国国内においては、HPAIの発生が拡大しており鶏卵の安定供給に支障が出ているほか、乳牛への感染が継続していることから地域的に牛乳の生産量にも影響が生じている。また、ヒトについても季節性インフルエンザが大流行する中、動物を介したHPAIの感染が報告されていることに加え、中部の一部地域では、結核や麻疹(はしか)の発生が報告されている。本フレームワークや第二次トランプ政権下の連邦政府が人獣共通感染症を含めた疾病の制御に対してどのように対処するのか、注目が集まっている。
【調査情報部 令和7年2月28日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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