米国においてHPAIが拡大中、鶏卵価格の高騰が顕著、乳牛への感染も継続
米国では2022年2月に高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生が確認されて以降、HPAIの家きんへの感染は終息しておらず、現在も継続的に発生している。また、24年3月に確認された乳牛への感染や動物を介したヒトへの感染事例も継続して報告されており、米国内での警戒が続いている。
1 採卵鶏におけるHPAI発生状況及び価格への影響
米国農務省全国農業統計局(USDA/NASS)によれば、2025年1月時点の採卵鶏羽数は約3億434万羽(注1)と推計されている。
米国農務省動植物検疫局(USDA/APHIS)によると、22年2月のHPAI発生以降の商業用採卵鶏飼養農場で殺処分された採卵鶏の羽数は、22年が4443万羽、23年は1439万羽に減少したものの、24年は4019万羽と再び増加した。また、25年1月は1950万羽となり、単月での殺処分羽数としては22年のHPAI発生以来、最多となった。さらに、25年3月3日時点までの採卵鶏の殺処分羽数は3093万羽に上っており、前年からの発生と相まって、米国内の鶏卵の安定供給と価格に影響を及ぼしている。
24年の直接消費向け鶏卵の年間生産量は、前年を下回る採卵鶏飼養羽数(図1)と9月以降の前年を下回る産卵率(図2)に加え、HPAIによる採卵鶏の減少から77億5100万ダース(前年比1.4%減)となった。これは、HPAIの発生が確認される前の21年の生産量(81億3600万ダース)と比較すると4.7%減となっている。25年の年間鶏卵生産量についてUSDAは、採卵鶏飼養羽数の減少と最近の産卵率の低下を反映し、各四半期の鶏卵生産量予測を下方修正したことで76億5000万ダース(前年比1.3%減)と予測している。
(注1)月間の平均飼養羽数。鶏卵生産用で約2億9780万羽、鶏卵生産用以外の繁殖卵用の種鶏は約654万羽(肉用種鶏:615万羽、採卵種鶏:39万羽)。
こうした鶏卵生産量の減少により、鶏卵卸売価格は上昇傾向にある(図3)。最近の価格動向と生産量の減少予測に基づいてUSDAは、25年各四半期の価格見通しを上方修正した。これによると、第1四半期は1ダース当たり725セント(1091円:1米ドル=150.67円(注2))、第2四半期は同425セント(639円)、第3四半期は同300セント(451円)、第4四半期は同325セント(489円)と徐々に低下するが、年間の平均価格は同444セント(668円、前年比46.4%高)と見込まれている。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2025年2月末TTS相場。
また、州内で生産・販売されるすべての卵をケージフリー(平飼いや放し飼いなどによる飼育)とすることを義務付けているカリフォルニア州の基準価格(注3)は、ここ数週間でさらに上昇し、2月21日時点で大型卵1ダースあたり9.22米ドル(1387円)となり、1月17日時点の価格(8.97米ドル、1350円)から2.8%高となった。また、カリフォルニア州内の卸売価格も2月21日時点で9.68米ドル(1457円)となり、1月17日時点の価格(8.76米ドル、1318円)から10.5%高となった。24年第4四半期には、HPAIにより殺処分されたすべての採卵鶏のうち、58.9%がケージフリーによる飼育が求められる州で発生したため、ケージフリー鶏卵の供給はさらにひっ迫した。米国農務省農業マーケティング局(USDA/AMS)のケージフリー鶏卵報告書によると、24年12月時点のケージフリーで飼養されている採卵鶏は1億2030万羽とされている。これは、USDA/NASSが全国の24年12月1日時点の鶏卵生産用の採卵鶏飼養羽数3億1110万羽の38.7%に相当する。
(注3)カリフォルニア州の基準を満たした卵の標準的な販売価格として、USADA/AMSが公表。
2 乳牛およびヒトへのHPAI感染事例
家きんでのHPAI感染が広がる中で、家畜やヒトへの感染も継続しており、政府機関による警戒が続いている。USDA/APHISによれば、2024年3月に初めて乳牛へのHPAIの感染が確認されて以降、25年3月3日までに978件の感染事例が報告されている。これまで計17の州
(注4)で確認されており、直近30日間ではカルフォルニア州、ネバダ州およびアリゾナ州で感染事例が報告されている。ネバダ州およびアリゾナ州では、これまでのHPAIウイルスの遺伝子型(B3.13)とは異なる遺伝子型(D1.1)のウイルスに感染していたことが判明している。D1.1の遺伝子型は、米国内の野鳥で広く検出されており、新たに乳牛へ侵入したものと考えられている。このような中で、24年12月から生乳のサンプル検査が実施
(注5)されており、現在45の州が能動的な検査を実施している(図4)。
(注4)アイオア州、アイダホ州、アリゾナ州、ウィスコンシン州、オクラホマ州、オハイオ州、カリフォルニア州、カンザス州、コロラド州、サウスダコタ州、テキサス州、ニューメキシコ州、ネバダ州、ノースカロライナ州、ミシガン州、ユタ州、ワイオミング州
(注5)「【海外情報】米国農務省、乳牛のHPAI感染に対処するため新たな生乳検査戦略を発表(米国)(令和6年12月20日発)」も併せて参照ください。
また、米国疾病対策予防センター(CDC)によると、24年以降のヒトへの感染事例は合計70件(25年2月24日時点)であり、ルイジアナ州では米国初となるH5亜型HPAIによる死亡事例が報告された。ヒトへの感染事例のほとんどは乳牛または商用家きんの発生に伴うとされているが、ルイジアナ州の感染事例は、現時点ではその他の動物によるものとされている。
CDCによれば、これまでと同様にヒトからヒトへの連続的な感染は確認されておらず、一般的な公衆衛生上のリスクは低いままとされている。一方で、農場従事者、庭先で鳥類を飼養する者、家畜衛生や公衆衛生業務の従事者やレクリエーションとして動物と接する者はリスクが高まるため、個人用保護具の使用が呼びかけられている。
3 HPAI対策をめぐる連邦議会の活動
米国での鶏卵価格上昇に伴い、ワーナー連邦上院議員(民主党、バージニア州選出)を中心とした超党派グループが、新たにUSDA長官に就任したロリンズ氏に対して、HPAIの脅威を軽減するためのあらゆる手段を模索するよう書面で要請した。要請概要は以下の通りである。
・ 採卵鶏および七面鳥へのワクチン接種に関する前向きな戦略の検討
・ 国際貿易の保護と維持のための海外パートナーへの働きかけ
・ 業界の専門家と協力し、予防と対応の方法を開発するためのHPAI戦略イニシアティブの確立
・ USDAの全国生乳検査戦略を利用する州への支援
・ バイオセキュリティ評価を実施する検査員の確保と適格性の確保
・ 影響を受けた生産者に正確に補償を行うため、採卵鶏および雛の補償率の改定
なお、ワクチン接種に関しては、米国からの輸出にも影響を与えるため、米国内の生産者や業界の間でも立場が分かれており、USDAの長官に就任したブルック・ロリンズ氏もワクチンの今後使用については明言しておらず、2月26日に公表されたHPAIに対する包括的な戦略の中でも、ワクチン、治療薬などに関する戦略については関係者を関与させながら検討するといった内容にとどめている。引き続き、今後のUSDAや関係省庁を含めた連邦政府全体のHPAI対策に注目が集まっている。
【調査情報部 令和7年3月7日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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