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窒素排出量の削減を目指し、飼料中の粗たんぱく質を削減(オランダ)

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 オランダの酪農生産者団体や乳業団体、飼料団体などは2025年2月27日、窒素排出量の削減を目的とした乳牛の飼料中たんぱく質削減に連携して取り組むための「酪農場の粗たんぱく質削減に関する誓約」に合意したと発表した。
 EUの硝酸塩指令における特例の段階的な廃止により、畜産部門からの窒素排出量の削減が迫られるオランダでは、排出量の6割を占める牛部門からの削減に向けて関連業界が一体となって取り組むことが明確となった。

飼料中の粗たんぱく質削減目標

 今回発表された誓約では、乳牛からのアンモニアの発生を抑えるため、2025年までにオランダの酪農場で使用される飼料(粗飼料および濃厚飼料)中の粗たんぱく質含有量の平均値を、乾物1キログラム当たり最大160グラム、26年までに同158グラムにするとした目標(注1)を定めた。
 この目標を達成するために、(1)酪農場での尿素発生量の観測や分析、(2)飼料中の粗たんぱく質含有量の明確化、(3)既存のツールを有機酪農の課題解決手法に適合させること、(4)酪農場別目標管理のためのシステム構築、などに取り組むとし、目標が達成されなかった場合には、今回の誓約に合意した団体などにより改善プログラムを作成するとしている。
 
(注1)2023年のオランダの飼料中平均粗たんぱく質含有量は、乾物1キログラム当たり163グラム。

各部門の取り組み

 オランダ酪農乳業協会(ZuivelNL)は、生乳中の尿素に関するベンチマーク(基準値)を定め、酪農家が過去のデータや同じ地域にある酪農場との数値を比較し、飼料の配合などを調整できるようにするとしている。
 また、飼料業界は、飼料中の粗たんぱく質含有量に関するモニタリングシステムを構築するとし、飼料中の粗たんぱく質の割合が高い酪農家は、飼料会社や独立したアドバイザーの指導を受けられるように環境を整備する。
 その他、経営コンサルタント業界は、粗たんぱく質の割合を下げることの経済的な優位性を明らかにし、酪農家に対して飼料中の粗たんぱく質削減に取り組むことの重要性をアピールするとした。

家畜排せつ物中の窒素を600〜900万キログラム削減

 154万頭の乳牛が飼養されているオランダでは、畜産部門からの窒素排出量が4億4940万トン(2024年)となっている。25年の窒素排出上限は4億4000万トンとなっており、上限を超えないためには前年比2.1%減となる排出量の削減が求められている(図)。
図
 オランダ農業園芸組織連合会(LTO)によると、26年までに飼料1キログラム当たり5グラムの粗たんぱく質を削減(23年比)することで、オランダ全体で600〜900万トンの窒素排出量の削減につながると試算(注2)しており、これにより上限を超えることはないとされている。
 
(注2)オランダでの乳牛飼養頭数が減少していることを加味した試算。

一部の酪農団体は「窒素ギャップ」の解消を求める

 今回の誓約に参加しなかった一部の酪農団体は、粗たんぱく質の削減については前向きに捉えているとしつつ、家畜排せつ物内の窒素やリン酸塩の排出量の試算値と、実際の排出量が合致していないとして、まずは政府がこの「窒素ギャップ」を解消することが重要としている。
 これに対しLTOは、「窒素ギャップ」は解消しなければならない課題として議論が進められているものの、排出上限の特例が廃止されたことを踏まえて、「硝酸塩指令の窒素排出上限を遵守するためには、この議論の結果を待つことはできない」と述べている。
【藤岡 洋太 令和7年3月6日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397