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中国が今年の一号文件を発表、初めて肉牛に言及、養豚は安定化へ(中国)

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 中国政府は2025年2月23日、中国共産党中央委員会と国務院の連名で「農村改革をさらに一歩深化させ、農村の全面的な振興を着実に推進することに関する意見」と題する今年の中央一号文件(注1)(以下「25年一号文件」)を発表した。翌24日には国務院が記者会見を行い、25年一号文件を解説した。
 以下に、その記者会見で述べられた25年一号文件の要点、基本的な枠組みおよび中国の畜産業に関する主な内容を紹介する。

 (注1)中国政府が毎年公表する文書のことであり、旧暦の元旦(春節。今年は1月29日)が過ぎてから公表される。その年に最も重視する政治課題が取り上げられるとされ、2004年からは毎年「三農」(農業、農村、農民)が主題とされてきた。

25年一号文件の要点と基本的枠組み

(1)記者会見で総括された要点と基本的枠組み
 25年一号文件は、目下直面している課題を直視し、今年の「三農」に関する取り組みの中でも確実に実施すべき重要事項を記載するとともに、長期にわたって農村の全面的な振興を着実に推進するために必要な事項も記載する。これらの事項を着実に実施することにより、農業の増益、農村活力の増進、そして農民の収入増が必ず実現され、「三農」の新しい局面が開かれると確信している。
25年一号文件は、「三農」に関する取り組みの安定化を総合的かつ基本的な土台としつつ農村改革を深化するということが全体に貫かれており、その枠組み全体を総括するとすれば、「2つの持続、4つの力点」で言い表せる。
 「2つの持続」とは、食糧(注2)などの重要な農産品の供給能力を持続的に増強し、また、農村の脱貧困(注3)の成果を持続的に堅固にしていくということである。これらは全面的な農村振興を推進する上で最低限の任務であり、これらを常に固守し続けることで、国家の食糧安全を確保するとともに、農村で再び貧困に戻る、あるいは新たな貧困を発生させないようにしていかなければならない。
 「4つの力点」とは、基礎行政区において国民をより豊かにし、産業を振興させること、農村建設の推進、農村治理体制の健全化、農村要素(人材、土地、資本および技術)保障の健全化とその配分体制・機構の最良化に力を入れることである。これらは農村の全面的な振興に向けて重点的に進めるべき任務である。

 (注2)主要穀物であるコメ、小麦、トウモロコシに加え、大豆などの豆類やイモ類を含んだもの。
 (注3)中国共産党は結成当初から農村を豊かにすることを政策目標として掲げている。「脱貧困」とは国家級貧困県としてリスト化された地域を貧困状態から脱却させる政策のことを指す。2020年にはすべての貧困県がリストから除外され、翌21年、中国共産党は結党100周年記念大会において、中国の農村では次の段階の豊かさを実現していくことを宣言し、中国の農業政策は国民の空腹を満たすために必要な穀物量を確保する段階から、食糧の質も問う段階、「穀物基本自給」(コメや小麦などの主要な農作物は自給を基本とする)をスローガンとする食糧の安全保障を確保する段階へと移行した。24年には食糧安全保障法が施行されている。


(2)「農業新質生産力」とは何か。
 25年中央一号文件では初めて「農業新質生産力」という言葉が使用された。これについて、中国農業農村部農村経済研究センターの金主任は、「この意味は広範にわたっており、生物育種技術、ドローン技術、AI技術、デジタル技術などを含む。これらの技術を応用することは、農業生産の発展状況の効果的な改善、さらには農業現代化進展の加速に重要な意義を持つ。我々は科学技術革命と産業革命の機会を適切に捉えなければならない。新質生産力を発展させることはもとより、新質生産力が適切に発展できる環境、体制を整えることが農業現代化の実現に必要な科学技術を支えることとなる」と述べた。

25年一号文件で初めて肉牛に言及、豚は安定化へ

(1) 「肉牛および乳牛産業の困難を緩和」
 「三農」が一号文件で取り上げられるようになった2004年以降、中国畜産業(豚、牛、羊のほか鶏、鴨などの家きんなど)のうち、具体的な施策が記載されてきたのはおおむね豚だけである。そのような中、25年一号文件では初めて肉牛・乳牛について「困難を緩和する政策を着実に実施し、生産能力の安定を図る」と明記したことに業界の注目が集まっている。
 25年1月、農業農村部はメディア懇談会を開催して24年の畜産業を「(23年に経営困難に陥っていた)養豚業界は既に苦境を脱したが、肉牛・乳牛業界はいまだに赤字状態で若干の改善に留まっている。この局面を完全に脱するには一層の努力が必要である。肉牛・乳牛産業の健全で持続的な発展を推進するため、農業農村部は関係部門と協力して生産・市場の動向監視を強化し、肉牛・乳牛産業の困難を緩和する政策を着実に実施し、技術指導を強化し、生産を安定させ、産業の対応力を増強する」と振り返っていた。25年一号文件の記載はこれを指したものと理解されている。
 「困難を緩和(する政策)」(中国語では「纾困」)は、一般的には財政支援、税制優遇、貸付支援などの経済面での支援や就業支援などを指すとされ、業界は今後の具体的な支援策に期待を向けている。

(2) 養豚は「安定的な発展の促進」へ
 豚は、肉の生産量が家畜の中で最多であり、主要な食料を安価で安定的に供給するとの政府の基本方針に関わる食料であること、それにも関わらず2018年のアフリカ豚熱のまん延によって大きく飼育頭数が減少したことから、19年以降、毎年一号文件で取り上げられてきた。24年の一号文件では「豚の生産能力調整の仕組みを最適化」とされていたが、これが25年一号文件では「豚の産出能力の監視と調整を適切に行い、安定的な発展を促進する」との記載に変えられた。
 メディアに対し、農業農村部養豚産業監視予測首席専門家は、「24年は生産現場の実情に基づく生産コントロールの最適化と調整が進んだ。今年の政策の重点は、昨年改訂した豚生産能力管理調整方策(注4)に基づく生産・市場動向の観測・予測を適切に行い、養豚生産量を合理的な範囲内に収めていくことになるだろう。25年の養豚生産量は、全体的に見れば小幅な変動に留まると見込んでいる」と述べた。
 養豚業界は25年一号文件の記載を好意的に受け止めており、発表翌日の2月24日には上場する養豚企業の株価も上昇した。たとえば、大手会社「新希望」は取引停止直前にまで上昇、「大北農」は7%の上昇となった。

 (注4)豚生産能力管理調整方策の改訂については海外情報「中国農業農村部、豚の飼養頭数調整のための方策を改訂」(令和6年3月12日発)をご参照ください。
【調査情報部 令和7年3月7日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9530