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EU農畜産業界、米国への報復関税による影響を懸念(EU)

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 欧州配合飼料生産者連盟(FEFAC)は2025年3月12日、米国の関税政策をめぐり欧州委員会が同日に発表した同年4月1日からの米国産輸入飼料穀物などを対象とした報復関税の実施に関し、大きな懸念を表明した。
 同連盟のコルデロ会長は、「米国とEUは、長年にわたり飼料部門の戦略的パートナーシップにより世界の飼料や食料の安全保障などに貢献してきた」とした上で、EUが大豆やトウモロコシ、リジンなどの添加物を輸入に依存していることから、「今回の報復関税がEUの飼料サプライチェーンの混乱につながる可能性がある」との懸念を表わした。
 
 欧州委員会が3月12日に発表した声明によると、米国が同日から実施した鉄鋼やアルミニウム製品に対する輸入関税への対抗措置として、4月1日以降、農産物を含む最大260億ユーロ(4兆846億円:1ユーロ=157.10円(注1))相当の米国製品に報復関税を適用する可能性があるとされている。また、同委員会は、報復関税の対象製品について、EUの各業界団体などと協議した上で最終的に決定するとしている。
 
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2025年2月末TTS相場。

米国はEUの大豆輸入の43%を占める

 EUの畜産物生産に用いる飼料用たんぱく質のうち、主に養豚や養鶏向けの配合飼料の原料となる大豆の輸入依存度が非常に高く、輸入量は米国(43%)とブラジル(41%)の2カ国で84%を占めている(注2)(図)。なお、大豆かすについては、自給率が4割程度であるものの、米国からの輸入量は全輸入量の5.2%(2023年)に留まっている。
 
(注2)海外情報「欧州議会、家畜飼料原料の輸入依存状況を公表(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003738.html)をご参照ください。
図
 オランダの金融機関ラボバンクの報告によると、EUが米国産大豆に対して報復関税を発動させた場合、大豆価格の上昇を招くことになり、EUの畜産物生産コストを上昇させ、生産者の収益性を悪化させる可能性が指摘されている。

生産者団体も貿易摩擦の影響を懸念

(1)生産者団体は貿易摩擦の影響を懸念

 EU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca)は、今回の米国とEUの貿易摩擦が、EUの農業分野に多大な影響を与える可能性があるとして懸念を表明し、両政府が建設的な対話を行うことを求めた。さらに、今週にも代表団が米国を訪問して米国の生産者との関係強化に向けた取り組みを行うとした。

(2)EUの乳製品市場における報復関税の影響は限定的か

 欧州の乳製品輸出団体である欧州乳製品輸出入・販売業者連合(Eucolait)は、EUの報復関税の候補対象からチーズが除外されていることや、EUが米国から輸入する乳製品は少量であることから、報復関税によるEUの乳製品市場への影響は少ないとしつつも、3月26日までに実施されるEU当局との協議では、すべての乳製品を報復関税の対象から除外するよう求めるとした。
 また、前述のラボバンクの報告によると、米国がEUから輸入する乳製品の多くは高価格帯のチーズであり、米国がEU産乳製品に対して追加関税を設定した場合は、EUが代替市場を見つけることは容易ではないとされている。

(3)中国やメキシコ向け輸出の拡大を期待する豚肉産業

 ドイツ養豚生産者協会(ISN)は、現時点で不確実性が大きいとしつつも、中国が米国に対する報復関税として、豚肉などに10%の追加関税を設定したことを踏まえて、EU産豚肉が中国でのシェア(市場占有率)拡大が期待できる可能性があるとしている。また、今後、米国とメキシコとの間で関税による貿易摩擦が生じた場合には、メキシコ向け輸出も増加する可能性があるとしている。
【藤岡 洋太 令和7年3月18日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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